【コラム】東京の路地で日本を再発見する(上)
この家の前で足を止めたのは、窓とカーテンの間の奥行き30センチほどの空間に目を奪われたからだ。そこには3本の花と青色のランプ、日本人形にクマの人形、それから花の模様に「spring」と英文で刺しゅうが施された布が、ディスプレーされていた。家の中からは死角に当たるので、通行人に見てもらうためだけに飾ったもののようだ。しばらく「なぜ他人のためにそんなことをするのだろう」と考えた末に、また歩き出した。
今度は新宿区神楽坂でのことだ。「佐々木」という表札がかかった家の前で、また足を止めた。塀の前に「白雪姫」に出てくるこびとの人形が3つ、花壇を抱きかかえるようにして置かれていた。花壇は2つで、大きさは縦40センチ、横1メートルほどだろうか。中には彩りも豊かな春の花々が咲いていた。そして塀には、つる草がはわせてあった。
「さすが日本人」と感嘆しながら、きびすを返すと、今度は足元の石畳が目にとまった。道に手のひら大の石がびっしりと敷き詰められていた。道ができたのは江戸時代だと言うから、100年以上にわたって無数の人々が通り過ぎてきた道ということになる。だが石畳の石と石の間にすき間はほとんどなく、石畳と塀のつなぎ目も実に美しく整っていた。セメントで固めた跡も見あたらなかった。
今度は中央区佃を訪れた。あまり裕福ではない高齢者が多く住む地区だ。両脇に黒ずんだ木造住宅が並ぶ、幅1メートルほどの狭い路地を歩いた。ここの地面は、きれいに敷き詰められた石畳ではなく、ただのセメントだった。それでも、はがれたり割れたりしたところのない、きれいな状態だった。古いものと見受けられたが、砂ぼこりや汚れも目立たなかった。こうした界わいに予想される不快なにおいも感じられなかった。
このあたりの住民は日々の生活にも手一杯のように思えるだが、誰かが路地を掃除しているのだろうか。そう思って観察すると、実際に多くの住民が路地の管理に心を砕いていることがわかった。その後この通りを散歩するたびに、住民が掃き掃除をしたり、花壇の花に水をやったりしている様子を見掛けた。
東京=鮮于鉦(ソンウ・ジョン)特派員
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