【社説】地獄の地・北朝鮮が「人民主権の国」とは
北朝鮮でも「最悪の収容所」と呼ばれる平安南道の价川政治犯収容所(第14号管理所)で生まれ育ち、昨年脱北に成功したシン・ドンヒョク氏が手記を出版した。同収容所から出たことのなかったシン氏は24歳になるまで金正日(キム・ジョンイル)総書記が誰なのかも知らなかったという。それほど外部と完全に遮断された収容所だということだ。
脱出に失敗した母と兄はシン氏の目の前で、それぞれ絞首刑と銃殺刑に処された。その光景に、拷問で足を骨折した父親は涙を流したが、シン氏は「不思議なことに涙も出てこなかった」と語った。当時14歳だったシン氏は罰として火鉢をあてられ、1カ月間身動きができないほどの重傷を負った。
収容所では結婚も、一種の「ご褒美」として収容者を統制する手段に使われているという。子どもには足し算や引き算程度の最低限の知識だけを教え、奴隷として働かせている。家族は課せられた労働の種類によって収容所内の農場や工場、炭坑で別々に住まわされる。
だが韓国で北朝鮮住民のせい惨な体験談は、いつからか「陳腐なストーリー」へと転落してしまった。彼らの苦痛と恐怖に満ちた体験についても、今や「すでにどこかで聞いた話」として興味を示さない人がほとんどだ。
盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は先日、北朝鮮の万寿台議事堂を訪問した際、芳名録に「人民主権の殿堂」と書いてのけた。また盧大統領は「金総書記は自らの体制について、確信を抱いていた。本物の権力者らしいという印象だった」、「北朝鮮には国民的な情熱が存在していた」と語った。
アウシュビッツ強制収容所について書いた著作『夜』で知られるエリ・ウィーゼル氏は、目の前で父が殴り殺され、母と妹がガス室に送られた。後にノーベル平和賞を受賞したウィーゼル氏は演説の中で、「虐殺が行われていたころ、多くのヨーロッパ人がその事実を知っていた。しかし何の行動も起こさなかった。虐殺の責任はナチスだけにあるのではない。沈黙は虐殺者の肩を持つことと同じだ。人間の命と尊厳が脅かされている時には、国境を乗り越え、消極的な態度を捨て去る必要がある」と語った。ウィーゼル氏は昨年10月、チェコのハベル前大統領やノルウェーのボンデビーク前首相とともに北朝鮮人権報告書を国連に提出し、北朝鮮人権決議案の採択を求めた。
金正日総書記と対話し、交渉するのはいい。ただし、数十人、数百人もの人々を動物のように扱う北朝鮮を「人民主権」だの、「国民的情熱」だのといった表現で持ち上げ、そこで殺され、拷問され、無残極まりない生活を余儀なくされている同胞たちをないがしろにすることだけは許されない。
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