「中国の公安に捕まるより死ぬ方がまし」(下)
【特集】天国の国境を越える
ラオスとの国境を越えた後、密林をかき分け、川を渡った。どんな小さな音にも、すかさず身を隠す。何度も息が切れた。もうだめだという仲間には、互いに手を差し伸べた。「生きるのも一緒、死ぬのも一緒」。歩き、走り、泳ぎ、車に乗って、ラオス国境の隠れ家にたどり着いたのは午後8時。命を懸けた越境の間、各自が口にしたのは卵一つとソーセージ2本だけ。1日休んで、ラオスとタイの国境に向け再び出発した。
8月24日午前5時。あとはメコン川さえ渡ればタイに着く。タイは脱北者を難民として受け入れてくれる国だ。一行の状態はまさに満身創痍。チョル君が倒れた。ヨンファさんは車酔いに悩まされ、吐くものもないままえずいてばかり。他のメンバーは腹痛と高熱に苦しんだ。「川の水を飲んでマラリアにかかったんだろう」。何百人もの脱北者を案内してきた中国人の案内人は、事も無げに言った。
メコン河畔の茂みに身を隠した一行は、誰から始めるともなしに祈りを捧げた。ヨンファさんが言う。「チョル、何をお祈りしたの?」 チョル君が答えた。「お母さんのところに無事に行けるようにして欲しいって」。脱北者であるチョル君の母親は、一足先に韓国へ行っている。「お姉ちゃんは?」と聞き返すチョル君。「そうね、わたしもお母さんに会いたい」
はるか彼方の川辺で光が瞬いた。タイの警備兵が持ち場を離れた、という合図だ。案内人が手招きをした。「早く走って!」。小さなモーターボートが2隻、近付いて来た。モーターボートは幅1メートル、長さ4メートル。船底から川の水が上がって来る。エンジンが回り出すと、誰かが声を抑えて言った。「身動きをするな。船がひっくり返ったらみんな死んでしまうんだ。魚のえさになりたいのか」。モーターボートはひどく揺れた。ヨンファさんは、バランスを取ろうと体に力を入れて船べりを掴んだ。川を渡るのにかかった時間は、ちょうど15分。船から降り、暗がりの中に身を隠した。ここはもうタイだ。一行は互いに抱き合った。「これでもう助かった、助かったんだ」。もはや涙も出なかった。
8月25日、タイ・バンコク。一行は駐タイ韓国大使館の前に集合した。悪夢のような九日間の旅は終わったものの、まだ全て解決したわけではないという。大使館の職員は一行を帰した。「今日は土曜日ですから、大使館は開庁していません。月曜日の午前中にまた来て下さい」。ヨンファさんはがっかりした。「大変な思いをしてここまで来たのに、わたしたちは歓迎されてないみたい」。二日後、一行は再び大使館の前に集まった。ヨンファさんは中国に電話した。「お母さん、ごめんね。わたしだけ助かって」。そして、彼女は泣いた。取材チームが同行した脱北者らはバンコクの外国人収容所に収容されたが、皆今年初めには韓国にやって来た。
特別取材班
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