韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が1月18日、李明博(イ・ミョンバク)元大統領に対し「憤怒の思いを禁じ得ない」と語った-というニュースを聞いて、野党を取材する記者の頭には、野党議員の驚きの表情が思い浮かんだ。野党としては、大統領が公に「憤怒」を示したのに続いて、各権力機関が野党に吹き付けるかもしれない「火炎」を心配するからだ。

 ところがこの日、野党議員が私的な席で見せた反応は、「恐怖」とはかなり隔たりがあった。野党大物議員の一人は「文大統領は、大統領としてやってはならないミスをしたようだ」と語った。保守系野党「自由韓国党」のある議員は「大統領がとうとう、『政治報復をしているのではないか』というわれわれの問題提起に『そうだ』と答えた」と笑ってみせた。

 現政権発足後、自由韓国党指導部は大統領府(青瓦台)に向けて「政治報復をするな」と言い続けている。李明博・朴槿恵(パク・クンへ)政権時代の国家情報院(韓国の情報機関)特殊活動費をめぐる検察の捜査拡大を受けて、金大中(キム・デジュン)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代の特殊活動費も探ってみようと特別検察官法案を発議した。また、盧・元大統領家族の賄賂疑惑も再度探ってみようと検察に告発した。しかし文大統領は、これに一切反応しなかった。自由韓国党の関係者は「大統領の無反応が、むしろ野党に不安を抱かせた」と語った。

 大統領の「憤怒」発言で、自由韓国党の議員らが「トンネルの出口」を見いだしたかのような雰囲気に変わったのだ。これまで反応がなかった自分たちの「いわゆる積弊清算=政治報復」という主張を、大統領自ら認めたと考えたからだ。これまで「積弊清算」捜査関連の発言を自制してきた、保守系少数野党「正しい政党」のユ・スンミン代表すら「感情を先に立てたものであって、現職大統領が元職大統領を捜査せよと指示するガイドライン」と批判した。

 野党にも「盧武鉉・元大統領の同志かつ秘書室長として、元大統領の死を収拾した自然人『文在寅』が感じる怒りは理解できる面がある」という声はある。しかし、現職大統領が事実上「積弊清算」の対象に上っている元職大統領に向かって「憤怒している」と公言するのは、別次元の話だ。

 このせいで、検察の正常な捜査すら「大統領の復讐(ふくしゅう)心」に伴う結果だという批判に直面しかねない。現政権の「積弊清算」をめぐる野党側の「政治報復」という主張は、これまで以上に大きな反応を得ることができる。そうなると、野党が文大統領に対する支持層の憤怒をあおって対抗する悪循環が繰り返されないともかぎらない。

 盧・元大統領は、在任中に繰り広げられた大統領選資金をめぐる捜査に際し「われわれが受け取った金が(ハンナラ党の)10分の1を超えたら、(大統領)職を賭し、政界から引退する用意がある」と発言した。すると検察首脳部や捜査チームでは、いろいろと複雑な流れや論争があったという。大統領の発言は重く、恐ろしいものだ。その分、意図せざる大きな逆風が起こることもあり得る、という点を思い起こしてくれればと思う。

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