文在寅(ムン・ジェイン)大統領は昨年5月10日の就任式で「環境が整えば平壌にも行きたい」と語った。金正恩(キム・ジョンウン)の答えは4日後だった。米アラスカまで到達可能なミサイルの発射だった。北朝鮮は翌週、翌々週にもミサイルを撃った。文大統領の就任1カ月目をそうやって記念した。

 文大統領は昨年7月、ドイツ訪問の際、思い切った対北朝鮮政策構想を明らかにする予定だった。訪問前日の7月4日、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)クラスのミサイルを発射した。文大統領は慌ててベルリンでの演説文を書き直さねばならなかった。北朝鮮が昨年9月に6回目の核実験を行ってから半月後、韓国政府は800万ドル規模の対北朝鮮支援計画を表明した。「こんなときに支援だなんて」という批判は覚悟だった。北朝鮮はその翌日、ミサイルを撃った。

 期待に反する行動を繰り返してきた金正恩は、1月1日に発表した新年の辞で、「平昌五輪に参加する」と初めて手を差し伸べてきた。大統領秘書室の文正仁(ムン・ジョンイン)安全保障担当特別補佐官は金正恩を「予測可能で果断さがある指導者だ」と評した。親文在寅陣営の元老格であるイ・ヘチャン国会議員は「任期当初に速やかに南北首脳会談を行うのがよい」と話した。金正恩がさまざまな挑発や非難で文在寅政権を苦しめてきた経緯をすっかり忘れてしまっている雰囲気だ。平昌五輪の準備過程でも北朝鮮は何度も約束を守らなかった。韓国政府は「北朝鮮が都合が悪くてそうしたのだろう」とむしろかばった。金正恩体制に対する文在寅政権の姿勢は相手によるいじめを喜んで受けて楽しむ病理的現象に思える。

 駐韓大使に内定したビクター・チャ氏の人事が突然撤回された。トランプ政権の対北朝鮮軍事オプションに懸念を表明したことが原因とみられる。トランプ大統領には対北朝鮮強硬論者であるチャ氏でさえ気に入らないのだ。トランプ大統領の目に文在寅政権の北朝鮮に対する低姿勢がどう映っているかは想像できる。

 20-30代は文大統領を積極的に支持するが、金正恩に対する考え方は異なる。20代の支持者は朝鮮日報のインタビューに対し、「文大統領が金正恩と首脳会談を行うさまを想像するのも嫌だ」と話した。若い層の金正恩に対するイメージは「権力を笠に着る財閥3世」のようなものだ。

 上下関係は相対的なものだ。就職を控えた若者にとっては財閥が上だろうが、権力の前には財閥は下だ。文在寅政権は財閥が勤労者と下請け企業に政党な対価を支払っていないことが韓国経済の慢性病の原因だと考えている。文政権関係者は「財閥を懲らしめてやる」という。最低賃金引き上げ、非正社員の正社員転換、法人税増税、労働時間短縮、さまざまな福祉制度の拡充など文政権が繰り出す政策は、一言でいえば「大企業から集金して国民に分け与える」というものだ。

 韓国の代表的企業はまた、「積弊」をめぐる捜査のメスが入らないか背筋が寒い思いをしている。政府の役に立っている企業、政府のせいで苦しんでいる企業も例外はない。

 サムスン電子は2017年の法人税として、7兆8000億ウォン(約8000億円)を納める見通しだ。韓国企業が納める法人税全体の10%を超える。最低賃金の17%引き上げに伴う雇用安定基金3兆ウォン、基礎年金5万ウォン引き上げの費用2兆4000億ウォン、子ども手当新設に必要な2兆ウォンは全てサムスン電子が納める法人税で賄える計算だ。

 サムスングループの李在鎔(イ・ジェヨン)副会長は朴槿恵(パク・クンヘ)前大統領からしっ責を受け、崔順実(チェ・スンシル)氏の娘、チョン・ユラ氏に乗馬支援を行った「罪」で一審で懲役5年の判決を受け服役中だ。

 ロッテグループは朴槿恵・文在寅政権の終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備をめぐる政策の揺らぎで中国から集中的な報復を受けた。昨年10月時点での損失予想は1兆2000億ウォンだ。ロッテの辛東彬(シン・ドンビン)会長=日本名・重光昭夫=は横領・背任の罪で裁判を受けた。昨年末に検察は辛会長に懲役10年を求刑したが、裁判所は執行猶予判決を下した。検事長出身の弁護士は「懲役10年の求刑に執行猶予が付くというのは、捜査に無理があったことを示している」と指摘する。

 厳しく大胆な任期初期の政権が企業を怖がらせ、ときにはたたく。正義を実現するという快感すら感じる。企業は当面は政府が注文する通りに動くだろうが、中長期的には海外での事業機会を探るはずだ。雇用も国外に流出することが避けられない。外国の専門家ですら「財閥に対する強硬路線は政治的には有利かもしれないが、韓国経済の成長と安定にはマイナスではないか」と懸念する。
 文在寅政権の北朝鮮に対するやられっぱなしの態度は安全保障を危うくし、大企業に対するいじめは経済の先行きを不安にする。

 

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