平壌市の西、大同江沿いに高さ45メートルの丘がある。ソウルでいえば、楊花大橋の傍らにある切頭山くらいに相当する位置、高さといえようか。故・金日成(キム・イルソン)主席の生家がある場所で、北朝鮮では聖地中の聖地。ここに立てば大同江とその周辺の万を数える景色を見ることができるとして、「万景峰」と呼んでいる。

 北朝鮮は1959年から在日朝鮮人の北送工作を開始し、およそ10万人の在日朝鮮人を連れていった。まずソ連の船を利用し、71年からは北朝鮮で建造した3500トン級の船を投入した。この船の名前が「万景峰号」だった。名前を見るだけでも、北朝鮮がこの船をどれほど重視していたか分かる。東京や大阪、横浜、神戸、新潟など日本の主要都市を回り、74年の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領狙撃(文世光〈ムン・セグァン〉事件)など、工作目的でも利用していた。

 金日成一家が使う豪華な品物、ドルや円を運ぶことも任務だった。金日成主席は92年、その功績を高く評価して、万景峰号に北朝鮮最高の栄誉とされる「金日成勲章」を授与した。この船が老朽化すると、北朝鮮は92年、金日成主席の80歳の誕生日を記念して総連系の商工業者から40億円を受け取り、新しく9700トン級の船を建造して「万景峰92」と命名した。

 2月4日、北朝鮮は韓国へ通知文を送り、芸術団本隊は万景峰92号を利用して同6日に韓国を訪れ、同船を芸術団の宿泊・食事の場所として利用したいと伝えてきた。韓国統一部(省に相当)が5日に明らかにした。当初は京義線の陸路を利用すると言っていたのに、北朝鮮は訪問2日前になってこの合意を破った。北朝鮮は2002年の釜山アジア大会のときも、万景峰92号に応援団を乗せてやって来た。万一発生するかもしれない、芸術団員の離脱を防ぎたいという目的もあるだろう。

 しかし今回は、北朝鮮制裁を揺るがそうとする狙いの方が大きいとみられる。韓国政府は2010年、哨戒艦「天安」爆沈事件の後、北朝鮮船の韓国入港を禁止するなどの内容を含む「5・24措置」を発表した。万景峰92号の受け入れは、この措置をほごにするものだ。国連の直接制裁の対象にはなっていないが、韓国政府の当局者は「安保理制裁は複雑、重層的で、(無条件に)大丈夫だと言うには注意を要する」と言っている。ロシアですら昨年、この船の入港を拒否したことがある。一部の専門家は、南北接触の当初から「北朝鮮が万景峰号を送ってきた場合、韓国は困ったことになる」と指摘していた。にもかかわらず、韓国政府は5日「平昌オリンピック成功のための例外措置」としかコメントしなかった。5・24措置を解除したいと考えてきた現政権だが、今この時期にやるべきなのかどうか疑問だ。何より、戦死した「天安」将兵の遺族がどれほど胸を痛めるだろうか。

 

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