「誰も口にさえしません。北朝鮮に関する話題で世の中は大騒ぎですが、生きているのか死んでいるのかさえ分からないまま、今もあの地に残る家族の話は誰もしてくれません」

 9日の平昌冬季オリンピック開会式に出席するため、北朝鮮の故・金日成(キム・イルソン)主席の孫娘で金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏が韓国にやって来る。世の中はこの話題で持ちきりだが、世界のスポーツの祭典であるはずのオリンピックへの関心は今もあまり高まっていない。

 「もはや何の期待もしません。兄が帰ってきても、父が兄を見て兄だと分かるかさえ分かりません」

 2人の兄が北朝鮮に拉致されたホ・ヨングンさん(62)が力なく笑った。ホさんの2人の兄は1975年8月に東海(日本海)でいか漁をしていたところ、北朝鮮に拉致された。上の兄のヨンホさん(当時26歳)は北朝鮮で死亡し、下の兄のジョンスさん(当時22歳)は人づてに生きているとは聞いたが、その後どうなったは分からない。

 2005年12月に済州島で行われた南北閣僚級会談で、当時の鄭東泳(チョン・ドンヨン)統一部(省に相当)長官が北朝鮮代表団を「同志」と呼んだ時、2人の父のソンマンさん(100)はすでに病院で生死の境をさまよっていた。

 「死ぬ前に息子の顔を一度でも見ようと、喉を通らない食事を無理やり飲み込んでいる」と語っていた老いた父は、今では家族の顔も見分けられなくなったという。

 昨年10月に米国のトランプ大統領が日本の北朝鮮拉致被害者家族に面会するというニュースを聞いた時、ホさんは記者に「トランプ大統領が韓国の拉致被害者家族に会うという話はないのか」と尋ね「米国の大統領に訴えれば、生きているか死んでいるかくらいは分かるかもしれない」「兄の話が聞ければ、父も少しは安心して目を閉じられるのに」と訴えた。

 トランプ大統領は昨年11月、東京で米日首脳会談を終えた直後、1977年に北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの母をはじめとする拉致被害者家族らと面会し「被害者たちが愛する家族の元に帰ってこられるよう協力したい」と述べた。めぐみさんの夫は1978年に全羅北道で拉致された当時17歳の高校生だったキム・ヨンナム氏だ。ヨンナム氏ら当時の高校生5人を含む北朝鮮に抑留中の戦後の韓国人拉致被害者は500人以上、韓国軍捕虜も500人以上だ。また6・25戦争(朝鮮戦争)中に北朝鮮に連れ去られた拉致被害者は9万6000人に上る。彼らの生死は今も全く分からない。

 米国のペンス副大統領は、北朝鮮から解放されて1週間後に死亡した米国人大学生ワームビアさんの父と共に平昌オリンピックの開会式に出席し、脱北者と面会することで北朝鮮の人権問題を大きく取り上げようとしている。ところが人権を重視する「キャンドル政権」を名乗る韓国政府だけがこの問題に沈黙している。北朝鮮拉致被害者家族や韓国軍捕虜の家族たちは「覚えていてください。今も北朝鮮の地には私たちの家族がいます」と今も必死で訴えている。

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