韓国大統領府の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長(閣僚級)を団長とする文在寅(ムン・ジェイン)大統領の対北特使団が5日に平壌を訪問し、午後6時から3時間にわたり北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と面会した。金正恩氏が韓国政府を代表する立場の人物らと正式に会うのは今回が初めて。韓国大統領府は鄭室長が金正恩氏に非核化に向けた米朝対話を促したこと、そして平昌オリンピックの際に北朝鮮が文大統領を南北首脳会談に招待したことと関連し、その回答などが書かれた文大統領からの親書を金正恩氏に手渡したことなどを明らかにした。これに対して金正恩氏がとりわけ非核化についてどのような考えを示したか、具体的には明らかになっていない。

 北朝鮮は特使団の到着に先立って論評を発表し、その中で「北南関係は外勢を排撃し、わが民族同士力を合わせ自主的に解決していかねばならない」と主張した。非核化を求める米国を排除し、核のある状態での南北関係を改めて求めたものと解釈できる。

 韓国国内でもこのような北朝鮮の主張に呼応する声が出始めている。与党・共に民主党外交通商委員会の幹事は「北朝鮮が核実験とミサイル発射の中断を約束すれば、われわれも韓米合同軍事演習を調整できる」と述べた。これについては文正仁(ムン・ジョンイン)大統領特別補佐官も数カ月前から「個人の意見」として主張しており、中国が「双中断」という言葉で表現している内容とも同じだ。

 文大統領は「米国も対話に向けたハードルを下げるべきだ」と求め「核の凍結」を対話の入り口に、そして「核廃棄」を対話の出口とする段階的解決策を提示しているが、双中断はそれよりも対話のハードルがさらに低い。核の凍結であれ挑発の中断であれ、最終的には非核化への道につながるかどうかが問題だ。

 非核化を前提としない挑発の中断について言えば、これは北朝鮮が米国の軍事攻撃を避け、核武力の完成に向けた時間を稼ぐ結果につながるだろう。言い換えれば金正恩氏が核実験やミサイル発射のボタンをしばらく押さないだけであり、その性能を引き上げるための作業は引き続き進められるはずだ。北朝鮮は2016年9月9日に5回目の核実験を行ってから1年後の昨年9月3日に6回目の核実験を強行した。1年にわたり挑発は中断したが、その結果は非核化ではなく核武装に一歩進んだ事実をわれわれは忘れてはならない。

 金正恩氏は軍事面ではすでに韓国を核の人質にしている。つまり既存のミサイルで韓国に対し核攻撃を加えることができるということだ。しかし核保有を米国に認めさせ、さらに制裁から抜け出すためのカードとなる大陸間弾道ミサイル(ICBM)についてはさらに実験が必要だ。金正恩氏はこの中間段階で綱引きに乗り出す可能性があり、おそらくその見通しもある程度立ったからこそ南北首脳会談というカードを取り出してきたのではないか。その腹案として有力とみられるものの一つが核・ミサイルの凍結であり、同時に南北首脳会談を実現させることで、最低で6カ月以上は米国の軍事攻撃を避けながら核武装を完成させる計算だろう。

 今や焦点は特使団に会った金正恩氏が非核化の意向を明確にしたかどうかだ。もしそうでなければ、金正恩氏が「凍結」あるいは「中断」を語ったとしても、それもまた新たな欺瞞(ぎまん)にすぎない。

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