数年前「イケア(IKEA)鉛筆の乞食」という言葉が話題となった。スウェーデンの家具量販店「イケア」が京畿道光明店に準備しておいた短い鉛筆を、顧客たちが全て持ち帰ってしまったというニュースだった。もともと顧客が家具の寸法を測ったり品物リストを記入したりするのに使うために準備された鉛筆だったが、ある日誰かがインターネットの中古取引サイトに同無料鉛筆を3000ウォン(約300円)で売るという広告を掲載したのだ。韓国人の市民意識を問い詰める声が多数寄せられた瞬間だった。

 ソウル市が貸し出し用自転車「タルンイ」のヘルメットを無料で貸し出し始めてから4日で半数がなくなったという。タルンイの利用者ではない人がヘルメットを持ち帰ったり、使用後に返却しなかったりした人が多かったという。1個当たり1万4000ウォン(約1400円)のヘルメットは、市の予算で用意したものだ。9月から自転車利用者のヘルメット着用が義務付けられることから、貸し出し用自転車の利用者のためのサービスとして準備された。しかし、紛失率が当初予想した20-30%をはるかに上回ったことで暗雲が立ち込めている。

 欧州は、自転車を利用した山行きが盛んな所だ。汗をかきながら峠道を越える人々は、例外なくヘルメットを着用している。都心地域でも自転車専用道路がよく整備されている上、自転車に配慮した交通環境が整えられている。しかし、欧州の都市は、そのほとんどがヘルメットの着用を義務付けていない。家の周辺や市内で数分だけ自転車に乗るのに、ヘルメットの着用が義務付けられれば、自転車の利用率が低下する恐れがあるためだ。

 ヘルメット着用の義務化が、自転車利用の活性化にどのような影響を及ぼすかは、今後見守っていかなければならないことだ。しかし、ヘルメットを無料で貸し出したところ、持ち帰ってしまい返却されなかったというのは、ややきまりが悪い。国民所得3万ドル(約330万円)時代に突入したものの、市民意識はまだまだ低いといった話だ。経済は短期間の成長が可能だが、倫理道徳はそのようになっていないという話を今更ながら考えてみる。地下鉄駅に備えられた書籍が失われ、地域住民センターで貸し出した傘は返却されない。新たに建てられた公共建物の水道の蛇口までがなくなってしまう。まだ、韓国は「公共物は持ち帰っても構わない」といった水準にとどまっているようだ。

 市民意識が高まるのを黙って待っているわけにはいかない。男性の小便器の真ん中にハエの絵を描いたところ、便器の周囲がきれいになったという。スーパーマーケットのレジの横に設置されている募金箱に人の目の写真を貼り付けたところ、寄付金が大幅に増えたという報告もある。公共物を大切に扱う心を自然に誘導する方法はないのだろうか。こうした心が少しずつ集まってつくられたのが先進国社会だ。次は「返却されたヘルメット」というニュースを目にしたいものだ。

金基哲(キム・ギチョル)論説委員

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