握手に関する無礼な行動に関してはルーマニアの独裁者だった故チャウシェスク元大統領の伝説が有名だ。失脚前に英国を訪問した際、エリザベス女王と握手したチャウシェスク氏は、直後に女王の目の前で手を消毒用のハンカチで拭いたという。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長も署名に使う万年筆を事前に消毒するが、誰かと握手した直後にその手を消毒するようなことはしない。握手によって確かに細菌はうつるだろう。手には平均で150種類、数万の細菌がいるとされており、握手の瞬間にこれらは相手に移動してしまう。チャウシェスクはこのように無礼な行動をしたが、後に細菌ではなく自動小銃で命を落とした。

 握手は自らが武器を手にしていないことを相手に示すために始まったという説が有力だ。いわば原初的なあいさつのやり方というわけだ。握手については米国の文化人類学者エドワード・ホールが定義した「個人的距離(45-120センチ)」を維持しつつ、親密な距離(45センチ以内)の範囲に一時的に入る行為だ。握手については「手ではなく心をつかむもの」という言い方もある。言語によらない意思疎通の中で最も比重が大きいのが握手ということだ。

 握手は政治家にとってまさに政治的な行為であり、そのやり方にはさまざまな意味が込められている。多くの人と握手を続け包帯までした朴槿恵(パク・クンヘ)前大統領は、痛みが出ないようにするため軽く手を取るやり方で握手をした。李明博(イ・ミョンバク)元大統領は握力が強かったので、手を取ってから少し強く手を振ることがあった。手の振りが強ければそれだけ相手と親密という意味だった。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領はその中間程度だったようだ。身長150センチと背が低かった中国の故トウ小平元主席は、背が高い欧米の首脳と握手する際には顔を見なかったという。これに対して米国のオバマ前大統領は日王(天皇)と会った時に腰を90度かがめて握手した。トランプ大統領は握手をさまざまなやり方で使い分けることで自らの政治的な意志を伝えている。そのパターンの中にはあえて相手の手を引っ張って相手をふらつかせるケースもある。例えば安倍首相と握手する際にはもう一方の手で軽く肩をたたき、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と握手するときには右の肩に手を乗せた。

 握手を拒否する行為は明らかに強い敵対心の表現だ。ドイツのメルケル首相が握手を求めた時に、トランプ大統領は気付かないふりをした。昨年、米国のペンス副大統領は平昌冬季オリンピックの開会式レセプションで北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)氏とだけは握手せずその場を立ち去った。

 光州民主化運動記念式典で、文大統領夫人の金正淑(キム・ジョンスク)氏が保守系野党・自由韓国党の黄教安(ファン・ギョアン)代表との握手を拒否したとする「握手パッシング」が問題となり、今も尾を引いている。韓国大統領府は「故意ではない」と説明しているが、現場にいた人やその時の様子を撮影した動画などによると、金氏は明らかにわざと握手に応じなかったようだ。大統領の妻であるなら、時に野党の代表と笑いながら握手に応じた方があらゆる面で良かったのではないか。

李東勲(イ・ドンフン)論説委員

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