【社説】兪炳彦容疑者を逮捕できない無能政府

 検察と警察当局は11日午前、宗教団体「キリスト教福音浸礼会(通称:救援派)」の拠点とされるクムスウォン(京畿道安城市)に対して2回目の家宅捜索を行った。救援派は旅客船「セウォル号」の実質的なオーナーとされる兪炳彦(ユ・ビョンオン)容疑者(73)=前セモ・グループ会長=が教主を務める宗教団体だ。検察と警察はこの日、兪容疑者と同容疑者の逃亡を支援している救援派信徒らの逮捕と関連資料の確保を目指し、6000人もの機動隊員を動員したが、目的を達成することはできなかった。これに先立ち検察は10日午後、警察や海洋警察の幹部に加え、韓国軍、安全行政部(省に相当、以下同じ)、関税庁の関係者をも呼んで兪容疑者の逮捕に向けた対策会議を招集した。会議では兪容疑者の密航を阻止するため海軍の艦艇を動員することも決まっていた。

 検察と警察が一人の容疑者の身柄を確保するため、数千人の機動隊員を動員して捜索を行うのはこれまでに例のなかったことだ。全国の統・班(下位行政区画)長組織に兪容疑者逮捕に向けた協力を要請したのも異例だ。その上韓国軍兵士まで兪容疑者逮捕に向けた作戦を展開しているのだから、今回は政府が動かすことのできるあらゆる組織を全て動員したと言ってもよいだろう。

 政府がこれほどまでに危機感を持って動いている理由は、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領が10日の国務会議(閣議)で「兪容疑者をいまだに捕まえられないようでは話にならない。これまでの追跡のやり方を見直し、別の新たな方法がないか、あらゆる手段や方法を検討して必ず法の裁きを受けさせなければならない」と叱責(しっせき)したからだ。朴大統領は先月27日にも「(兪容疑者の)身柄を直ちに拘束し、(事故の)真相と疑惑を解明せよ」と指示していた。

 朴大統領の指示と叱責を受け、仁川地検は10日午後11時15分、仁川地裁にクムスウォンへの家宅捜索を申請した。検察はこれまでクムスウォンの敷地が非常に広大であることから、兪容疑者が隠れていても探し出すのは難しいという理由で2回目の家宅捜索には難色を示していた。警察も9日に行われた会議の際「クムスウォンの家宅捜索を再び行うと、信徒らともみ合いになって騒動になる恐れがある」という理由から、家宅捜索を行わない方向で意見を集約していたという。

 しかし検察と警察は結局11日になってクムスウォンへの家宅捜索に踏み切った。それでも兪容疑者と長男の大均(テギュン)氏、また逃亡を支援した疑いのある女性信徒2人の身柄を拘束することはできなかった。徹底した準備を行っても逮捕に確信を持てないにもかかわらず、大統領の叱責を受けたという理由だけで慌てて家宅捜索を行っているようでは目的を達成できないのは当然だ。もちろん兪容疑者を逮捕できていれば幸いだったが、大統領までが容疑者の逮捕について直接言及したにもかかわらず、成果を出せなかったとなれば、このような状況を招いた検察はもちろん、大統領府も大きく気分を害するはずだ。

 今国民が大韓民国の政府組織に対して抱いている感情は非常に厳しい。海洋警察はセウォル号が沈没した際、自分の足で脱出した乗務員や乗客以外は一人も救出することができず、安全行政部は行方不明者や犠牲者の人数さえ正確に集計できなかった。海洋水産部は清海鎮海運が旅客船を勝手に改造し、危険な状態のまま運航を続けても、見て見ぬふりをしていた。しかも今度は犯罪の容疑者を捕らえるために軍隊まで動員しなければならない状況に追い込まれている。これでは国民もこの国の政府と政府関係者の無能さにあきれ返るしかないだろう。

<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c) Chosunonline.com>
関連ニュース
あわせて読みたい