【萬物相】憤怒調節障害

【萬物相】憤怒調節障害

 精神科を訪れる人の中に、自分で自分の頭髪を抜いてしまう「抜毛症」の患者がいる。抜毛癖ともよばれる。これらの人々は、頭皮が見えてしまうくらいに髪が薄くなった部分がところどころにある。頭髪は、あちこちで乱雑に抜けており、円形脱毛症とは様子が異なる。ストレスに耐えられなくて頭髪を引っ張り、こうなってしまったのだ。10代の少女にしばしば見られる衝動制御障害だ。感情的に満たされなかったり、不安やストレスに耐えるための調節能力に問題があったりする場合に生ずる。

 腹立ち紛れの放火、自動車の暴走、突発的に刃物を振り回すといった事件は、通常は憤怒調節障害と呼ばれる。精神医学では「間欠性爆発性障害」という診断名を用いる。大きく分ければ衝動制御障害だ。ささいな怒りでも、アドレナリンをはじめとするストレス興奮ホルモンが過剰に分泌される。場違いな怒りを過剰に噴出させ、理性的判断を行う前頭葉の機能をまひさせる。自分の行動が及ぼす結果を予測できず、暴力を振るい、物を壊す。そうして、すっきりしたり、後悔したりする。

 30代の男が先日、高速道路で割り込みをしようとした際、相手の車が譲らなかったといって怒りを爆発させた。トンネル内で相手の車を止め、フロントガラスやボンネットを伸縮式警棒(特殊警棒)でたたき壊した。伸縮式警棒とは、3段式の短い棒が柄の中に納まっている護身具だ。被害者の車のドライブレコーダーが撮影した動画を見ると、加害者の行動は、怒りの発作に近い。こうした場合、相手を説得しようとしても無駄だ。泥酔した人と同じく、とにかく避けるのが上策だ。

 「ナッツリターン」事件を起こした大韓航空の趙顕娥(チョ・ヒョンア)元副社長も、怒りのコントロールに失敗したケースに当たると、ある精神科医が分析した。成長期に適切な欲求充足と挫折をそれぞれ経験することで、人格が成熟する。望みが適度にかなえられることで、肯定の心理が生まれる。そこに適切な挫折が交じることで、世の中は自分の思い通りにはならない、ということを体得する。挫折なく充足のみを享受すれば、存在感は極大化し、世間を軽視するようになる。最終的には、どうしても自分の性に合わない場合、極度の怒りをあらわにする。苦労は買ってでもせよ、という言葉はここから来ている。

 警察庁の統計では、暴行・傷害・脅迫・恐喝・略取・監禁犯罪の半数近い46%は突発的な犯行だ。衝動制御障害の患者も、過去5年間で2倍に増えた。過度の生存ストレス、心にためこんだ末に爆発するコミュニケーション不足、過保護、暴力ゲームや刺激的なドラマなどが原因に挙げられる。怒りの発作の後には、「身の破滅」が待っている。全ての怒りは、自分に災いとして戻ってくるのだ。他人への配慮・共感を教える「心の教育」が強く求められている。

金哲中(キム・チョルジュン)社会政策部医学専門記者
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