生け花、縫い物、塗り絵、ニンニクの皮むき、煮干しのはらわた取り…共通点は何だろうか? これらはいずれも胎教の方法だ。おなかに赤ちゃんのいる未来の母親が針仕事や塗り絵、煮干しのはらわた取りなどでこまめに指を使うと、胎児の頭脳が発達するのだという。「胎教旅行」に出かける妊婦たちもいる。グアムやフィリピンのボラカイ島などに飛び、熱帯の太陽や原生林を楽しむと、母もおなかの子も心身共に健康になるのだという。飛行機代も気になるが、流産の危険はないのか、旧世代の母親としては到底理解できない胎教法だ。
筆者は高齢で子どもを授かったが、当時は胎教としてモーツアルトの音楽が大流行した。バッハでもベートーベンでもなく、モーツアルトを聴かせると胎児のIQが高くなるというので、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」のような長いタイトルの曲を耳が擦り切れるほど聞いた。産婦人科の待合室ではおなかに腹帯を巻いてカセットを挟み込んでいる熱心な妊婦もみられた。MP3が普及してからはカセットが「ベリーフォン」(おなかに貼り付けるオーディオスピーカー)に変わった。iPhone(アイフォーン)を母の耳ではなく膨らんだおなかに着けるのだ。
音楽だけでなく、胎児に英語も聞かせる。おなかの中にいるときから国際的な胎児に育てたいという韓国のママたちの熱烈な意志だ。胎児に英語で語り掛けたいがために専門学校に通う妊婦もいる。胎児が英語を言語として認識するのはほぼ不可能、というのが学者たちの見解だが、そんなことはお構いなしだ。英語に続き、最近では数学胎教がはやっている。論理的で思考力のある子どもを生むために、毎日30分ずつ中学の数学の問題を解き、19×19の掛け算(2桁の九九)を暗唱し、高校生に人気の参考書「数学の定石」の勉強会を開くのだという。数学が大学合格を左右する時代なので、自分の子どもだけは「数学放棄者(数放者、数学を諦めた生徒)」にしたくないという熱い思いがあるのだ。何とも涙ぐましい。
しかし実に怪しい方法だ。胎教によって数学の得意な子どもが生まれるのなら、韓国では数学の先生の子どもは皆、数学博士になってしまうではないか。「妊娠中にチャジャン麺(韓国式のジャージャー麺)を食べると肌の黒い子が生まれる」という根拠のないデマと同じぐらいでたらめだ。専門家たちは「最高の胎教は、母親が幸せを感じる瞬間」と口をそろえる。好きでもないクラシックを無理やり聴き、難しい数学の問題を解きながらイライラするのなら、むしろ母体にとってマイナスになるというわけだ。
『胎教は科学だ』の著者、パク・ムンイル教授は、胎児の父親の声と愛情が胎教に非常に大きな影響を及ぼすと指摘した。朝鮮王朝の正祖の時代(1776~1800)に李師朱堂(イ・サジュダン)が著した『胎教新記』にも同様の記述がある。「先生が10年教えても、妊娠中の母親が施す10か月の教育には及ばず、母親の10か月の教育は、父親の一日(妻を懐妊させる日)に及ばない」。父親となる男性は妻の懐妊の瞬間、心と体が清らかでなければならないのはもちろん、妊娠している期間も妻の手足となり愛情を注ぐ。これほど優れた胎教はないということだ。