【コラム】北朝鮮の奥の手、「核EMP攻撃」に備えよ

【コラム】北朝鮮の奥の手、「核EMP攻撃」に備えよ

 1962年7月、太平洋のジョンストン島上空400キロで、米軍が核実験のため数百キロトン(1キロトンはTNT爆薬1000トンに相当)の核兵器を空中爆発させた。すると1445キロ離れたハワイのホノルルで、交通信号機の動作がおかしくなり、ラジオ放送が停止し、さらに通信網の途絶、電力回路が落ちるといった異常な事件が続出した。電気・電子装置に異常が発生したからだ。およそ700キロ離れた場所では、地下ケーブルなども損傷した。こうした事態を招いた犯人は強力な電磁パルス(EMP)だったことが、後に確認された。

 EMPは、電子装置を破壊したりまひさせたりするほどに強力な電磁場を、瞬間的に発生させる。核爆発の際には強いX線・ガンマ線などが発生するが、地上よりも30-数百キロ上空で爆発させたときの方が、はるかに大きなEMPの被害をもたらしかねない。90年代以降、半導体など各種の電子部品が取り付けられたコンピューターをはじめ電子機器の使用は大幅に増えており、高空爆発時に生ずるEMPの破壊力は、過去に比べ極めて大きくなった。核兵器を地上で爆発させたときと比べると、高空での核爆発は爆風・熱などによる人命の殺傷被害が大幅に減るため、核兵器の使用に伴う非難をあまり受けないことも考えられる。現実的に極めて使いにくかった核兵器が、「使える」兵器になるのだ。ここに、核EMP兵器が注目される理由がある。

 問題は、こうした核EMP兵器はもはや米ロなど大国の専有物ではなく、北朝鮮も使えるようになりつつある、という点だ。北朝鮮は、どうすれば少ない費用で韓米両軍の戦争遂行能力を最大限無力化できるかということを、常に考え抜いてきた。サイバー戦、GPS(衛星利用測位システム)かく乱などがその代表例だ。EMPも、そうした点で、北朝鮮にとって魅力的な兵器になることは避けられない。米国のジェームズ・ウルジー元CIA(中央情報局)長官は2014年、連邦議会に提出した答弁書の中で「ロシア人が2004年、『頭脳流出』で北朝鮮のEMP兵器開発を支援したと語った」と明らかにした。今年3月、北朝鮮は弾道ミサイルを500キロ離れた場所に奇襲発射した後、「特定の高度で核弾頭を爆発させる射撃方法を用いた」と、核EMP実験の可能性を示唆したこともある。

 韓半島(朝鮮半島)で核EMP兵器が使用されたら、その結果は恐るべき大災害になる。韓国原子力研究院のシミュレーションによると、ソウル上空100キロで100キロトンの核爆弾が爆発した場合、その被害は馬てい形に南部へと拡大し、ソウルから鶏竜台までのあらゆる電力網・通信網が破壊されかねないことが判明した。韓国国防部(省に相当)傘下の研究機関は、20キロトンの核兵器1発で、北朝鮮を除く韓半島全域の電子装置を搭載した兵器が無力化されかねない、と警告している。科学技術政策研究院は、最近発行した報告書で「韓国軍の通信やレーダー、民間情報通信網、電力ケーブル、人工衛星などは北朝鮮の核EMP攻撃に対し非常に脆弱(ぜいじゃく)」だとして、北朝鮮が核兵器を空中爆発させられる高度より高い位置でミサイルを迎撃できる能力の確保や、地上設備のEMP防護対策などを勧告した。大災害が現実のものにならないよう、ミサイル防衛能力の強化、EMP防護施設の確保はもちろん、北朝鮮の核ミサイルを早期に無力化できる案を積極的に整備すべきだろう。

ユ・ヨンウォン軍事専門記者・論説委員
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