【コラム】フェイクニュースに振り回される韓国社会

 2014年5月の貨客船「セウォル号」沈没事故直後、全羅南道珍島の彭木港で見たイ・サンホ氏は行方不明者の家族たちの視線を意識してか、白いマスクを終始着けていた。イ・サンホ氏は「『ダイビング・ベル』(釣り鐘形の水中構造装置)を使えば20時間の連続潜水作業が可能なのに、政府がそれを阻止している」と主張した。だが、投入されたダイビング・ベルは結局、遺体を1柱も引き揚げられなかった。救助作業に混乱をもたらしただけだった。

 救助作業のように高度な知識と経験が必要な分野は、一般人には判断できない専門家の領域だ。構造・船舶分野の専門家らは「事故海域のように流れが強い所では、ダイビング・ベルは無用の長物だ」と何度も反対した。しかし、専門家でもないイ・サンホ氏がインターネット放送やソーシャル・メディアを通じて主張する政府陰謀説に、世論は引っ張り回された。そして、政治家たちもこれに加勢した。結局、政府がダイビング・ベル投入を決定したものの、その結末は私たちも知っている通りだ。

 同様のことが3年を経てまた繰り返されている。イ・サンホ氏は今年8月30日、自身が監督したドキュメンタリー映画『キム・グァンソク』を公開して、韓国フォーク界を代表する歌手で自殺したキム・グァンソクさん(1964年-96年)の「他殺疑惑」を提起した。イ・サンホ氏が今になってなぜその疑惑を提起したのかは知る由もない。イ・サンホ氏は映画公開直後、キム・グァンソクさんの娘が10年前に死亡していたことを暴露し、世間の注目を浴びた。イ・サンホ氏は「キム・グァンソクさんは妻ソ・ヘスンさんによって殺された可能性がある。娘もソ・ヘスンさんが殺したのかもしれない」と主張した。ソ・ヘスンさんのこれまでの私的な事情なども重なり、キム・グァンソクさんと娘の他殺は事実であるかのように世間に受け止められた。だが、正確な死因は捜査官や法医学者など専門家が判断しなければならない。もちろん、専門家でも100%は真実を突き止められないかもしれないが、一部の状況しか知らない一般人よりも専門家の判断を信じるべきだろう。それが常識的な社会だ。ところが、実際にはその逆になった。今回も現職の国会議員らが何の検証もなしにキム・グァンソクさんの娘の死を再捜査するよう促した。結局、警察は9月末に再捜査を開始したが、約2カ月でソ・ヘスンさんに「嫌疑なし」との判断を下した。

社会部=イ・スルビ記者
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