処罰が軽いため、タクシー運転手は通報をためらう。事情聴取を受けるために警察署に出入りすることで運転ができなくなり、収入が減るからだ。タクシー運転手のウンさん(51)は「酔った乗客に顔を殴られて警察に通報したが、乗客は一方的な暴行ではなく互いに殴り合ったと主張、双方が罰金を30万ウォン(約3万円)ずつ科せられた。今は通報したことを後悔している」と言った。タクシー運転手チェ・ヨンソンさん(66)は「処罰が軽いのに、警察署に出入するため会社に売上金を渡すのが難しくなってしまうことから、運転手たちは通報をためらう」と語った。
こうしたことから、運転手を守るために運転席を取り囲むプラスチック製の防護板を設置するべきだとの声が上がっている。海外の場合を見ると、オーストラリアでは防護板設置が法で義務付けられており、日本では全タクシーの約70%に設置されている。英国や米国でも大都市を中心に義務付けられている。
韓国の場合を見ると、バスでは2006年からの防護板設置が義務付けられているが、タクシーは費用負担などを理由にタクシー会社が反発し、義務化対象から除外されている。設置するには、タクシー運転手が自ら設置費用約30万ウォン(約3万円)を負担しなければならない。
タクシー運転手たちも防護板の設置を嫌がっている。乗客が「犯罪者扱いするのか」「料金支払いに不便だ」などと抗議することが多いからだ。タクシー団体関係者は「暴行事件が発生すると防護板を設置する運転手が多少は増えるが、しばらく経つと乗客の評判を気にして防護板を外してしまうことも多い」と言った。京畿道は15年から防護板の設置費用支援事業を行っているが、同道内のタクシー約3万6000台のうち、防護板を設置しているのは約2000台にとどまっている。
韓国道路交通公団のパク・ムヒョク教授は「防護板は乗客の暴力から運転手を守ることができる唯一の選択肢だ。タクシー会社と自治体の間で合意をすることにより早期に関連予算を導入、設置を義務付けなければならない」と話している。