【萬物相】北朝鮮の化粧品

【萬物相】北朝鮮の化粧品

 中朝貿易の最大都市、丹東に「新柳」という大規模な卸売商店がある。中国に来て北朝鮮へ戻っていく若い女性たちが例外なく「化粧品ショッピング」をする場所だ。マスカラやリップスティックからヘアジェルに至るまで、女性用のかばんにぎっしり詰め込む北朝鮮の女性は少なくない。「なぜこんなにたくさん買うのか」と尋ねると「女が化粧品を買うのが何かおかしいか」と言われた。愚問だというわけだ。

 金日成(キム・イルソン)主席は6・25(朝鮮戦争)を準備していたさなかの1949年、丹東の対岸にある新義州に大きな化粧品工場を作った。金日成主席は回顧録で「日帝から鹵獲(ろかく)した化粧品を、最初はそのまま捨てていた」と記した。ところがある日、顔がすすだらけの女性兵士が痛ましく、化粧品をプレゼントしたところ、部隊にぱっと生気が戻ったという。この新義州工場が生産する化粧品のブランドが「春の香り」。金正日(キム・ジョンイル)総書記は2005年、このタイトルで映画を作ったことがある。良い化粧品を作るため、100%の無菌水を追い求める工場職員の物語だ。

 金正恩(キム・ジョンウン)委員長が新義州の化粧品工場を訪問した、と北朝鮮の宣伝機関が1日に報じた。自ら手の甲に化粧品を垂らして観察し「平壌に『春の香り』の化粧品を専門に販売する店を建設すべき」と語った。2015年に平壌の化粧品工場を訪れた際には「外国のマスカラは水に入って出てきても保たれているが、国内(北朝鮮)産はあくびをしただけでも『タヌキの目』になる」とも語っていた。

 金氏一族は三代にわたって化粧品を強調しているが、北朝鮮の化粧品の質はめちゃくちゃだ。昨年韓国で出版された『北朝鮮女性とコスメティック』という本によると、北朝鮮産の化粧品64種類のうち7種類から、内分泌かく乱物質が検出された。朝鮮ニンジンの成分が入っていると広告していたのに、実際の成分はゼロだったケースもある。

 中国も、改革・開放の時期に化粧品メーカーが雨後のたけのこのごとく生まれた。それまで抑圧されていた美しさに対する個人的欲求が、化粧品需要として噴出したのだった。金正恩委員長まで乗り出して化粧品に関心を示しているのを見ると、北朝鮮に変化の兆しがありそうだ。しかし化粧品こそ、化学・金型・マーケティングなどが全て結合した先進国産業だ。金正恩委員長の一声で、一夜のうちに北朝鮮の消費者を満足させる製品が出てくるはずもない。金正恩委員長は、シンガポールの夜景を見て「平壌の夜景も珍しいものにすべき」と指示した。これを受けて取りあえず、イルミネーション研究所が105階建ての柳京ホテルの照明を変更したが、ホテルは30年にわたって未完成のままだ。北朝鮮にきちんとした化粧品、きちんとした照明を登場させるつもりなら、体制の根本が変わらなければならない。

アン・ヨンヒョン論説委員

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