韓国の大法院(最高裁に相当)判決は、日本企業の賠償責任を巡る対立にとどまらず、韓日関係全体に大きな影響を及ぼすことは避けられない。1965年に韓日国交正常化の前提として妥結された、いわゆる「請求権協定」の根幹を揺るがす内容だからだ。
大法院が日本企業の賠償責任を認めた根拠は「被害者の損害賠償請求権は請求権協定によって消滅はしなかった」というもの。大法院は、同協定が植民地時代の違法行為に対する損害賠償ではなく、財政的・民事的な債権・債務関係を解決するために始まったと指摘した。強制労働により支払われなかった月給など未収金の清算にすぎなかった、というわけだ。
大法院判決の通り、請求権交渉が名目の上では財政請求権に限定されていたのは事実だ。同協定が、戦勝国と日本との間に結ばれたサンフランシスコ講和条約(1951年)の後続協定という形式で進められたからだ。講和条約の締結当時、韓国は戦勝国の地位を得られなかった。「韓国は日本と戦ったことがない」という英国の主張が通ったからだ。従って、韓国は戦勝国資格の損害賠償請求権ではなく、旧植民地資格の財産請求権のみを認められた。植民地の賠償を要求してきた李承晩(イ・スンマン)政権も、講和条約以降は賠償権を事実上放棄した。戦勝国が認めない賠償要求を日本が受け入れるはずがないからだ。賠償は、植民地支配そのものが違法だったと認める意味もある。当時、米英仏など主な戦勝国は植民地を抱える帝国主義国家だった。