【コラム】文在寅大統領が語る「美しい復讐」の矛盾

 しかし、文大統領はまだ「違い」を示せずにいる。誰よりもブラックリストを批判したが、現政権でも似たような事態が起き、検察による捜査が行われている。閣僚・次官クラスでは11人が脱落した。朴槿恵前大統領が自分に対する捜査を「政治的報復」だと批判すると、文大統領は自ら「憤っている」と発言していた。

 フランス語にルサンチマンという言葉がある。何かを長い間考え続けることで、韓国語の「怨恨」や「復讐心」に近い。ニーチェはルサンチマンが奴隷道徳をつくり出すと説いた。奴隷は自分たちがなしえないことについて、そこから生じる挫折感を克服するために復讐を想像する。ゆえに奴隷道徳は根本的に敵対的世界、すなわち「主流」に対する反作用だ。自分たちが道徳の中心ではない。

 高麗大の金禹昌(キム・ウチャン)名誉教授は「ルサンチマンは自我が真の自分らしさを失うところから生まれる」と語った。自分のアイデンティティーが混乱すれば全てのことがもつれる。大統領はもはや弱者でも非主流でもない。文大統領は財産20億ウォン(約2億円)を超える弁護士であり、この国で最高の権力者だ。事あるごとに「既得権」との戦争を叫ぶチョ・グク首席秘書官はソウル大教授のポストに加え、江南のマンションを含む資産が54億ウォンある。30年間マイホームを持てなかったと主張した金宜謙前報道官は25億ウォン相当の物件オーナーになって青瓦台を去った。

 ニーチェは奴隷道徳と反対に「君主の道徳」も指摘した。君主の道徳は自分自身を強く肯定するところから生じる「高貴な徳」だとした。与党幹部が自分たちを堂々と「主流」であると肯定することを望む。世の中が違って見えるはずだ。そうして初めて「美しい復讐」に成功できる。

黄大振(ファン・デジン)政治部次長

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