【コラム】「ビラを見て脱北を決心した」

 統一部は、この法律が「金与正(キム・ヨジョン)下命法」だという指摘に対しても「歪曲(わいきょく)」だと腹を立てた。今年6月4日に「(ビラ散布を)阻止させる法律でも作れ」という金与正の談話があったから協調したわけではなく、2008年の第18代国会のころから推進してきた結果だという主張だ。12年の熟成の末に結実を見たという趣旨だが、事情を知っている人間なら同意し難い。暴言と呪詛(じゅそ)でつづられた金与正の談話が6月4日に『労働新聞』を通して公開されたとき、当惑していた統一部の官僚らの姿が目に浮かぶ。談話からわずか4時間後、統一部の報道官は予定にもなかったブリーフィングを自ら要請し、対北ビラ禁止法を準備していると発表した。与党議員らは、先を争うように「百害無益なビラに断固対応したい」と言いだした。その結果物が、今回国会を通過した対北ビラ禁止法だ。12年の熟成を経たものではなく、反対世論を意識して12年間ためらっていた法律を、金与正の一言で一挙に制定した-とみても無理はない。だから「金与正下命法」と呼ぶのだ。

 統一部は「ビラ禁止法に賛成する接境地域住民らの見解文」なる資料も随時配布している。この法律は「接境地域国民の生命保護のための措置」だという主張を後押ししようというのが狙いだ。もちろん、かつて一部の団体が風向きも良くない日に公にビラを飛ばし、北朝鮮を刺激したことはある。だがこうした行動は警察官職務執行法など、既存の法律でも十分に防ぐことができる。ビラ散布を大本から禁止して表現の自由まで侵害するようなことではない。この法律の最大の被害者は、外部のニュースを望む北朝鮮住民になるだろう。

キム・ミョンソン記者

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