雇用が四散している。コロナのせいでもあるが、それ以前から外国人投資の誘致はおろか、大企業に続いて中小企業まで海外に出ていっている状況だったのは誰も否定できない。コロナ克服後も、次の世代の雇用状況は好転しそうにない。全ての産業にわたって人工知能(AI)技術の浸透が加速し、仕事を作りだすことは一層難しくなるだろう。こうした中で、なおも雇用を守り、増やせる余地が最も大きいのが観光産業だ。
韓国は長い年月にわたり国が一つだったので、宮殿や城といった観光資源が貧弱だ。日本だけを見ても、韓国の景福宮に相当するレベルの大名の城はざらにあり、イタリアやドイツのように19世紀半ばにようやく統一された国々は、主な都市ごとにソウルと同水準の観光資源がずらりとそろっている。数と質の面で教会・聖堂に匹敵する寺院はある。しかし山岳観光や文化・芸術観光インフラとなると、途端に胸がつかえる。
よその国は今でも、強力な文化観光地を新たに作っている。英国のテート・ギャラリーは、閉鎖された発電所を改造して2000年に「テート・モダン」をオープンし、英国画家中心の美術館という限界を乗り越えた。既に美術館があふれかえっているパリでは、2014年にルイ・ヴィトンのアルノー会長がブーローニュの森に新たな美術館(フォンダシオン・ルイ・ヴィトン)を建て、グッチのピノー会長はナポレオン3世時代の建物を改築し、自身のコレクションを展示する私設美術館(ブルス・ドゥ・コメルス)を今春オープンする。アラブ首長国連邦(UAE)は2017年、アブダビにルーブル美術館の分館(ルーブル・アブダビ)を誘致した。