ローマ字で表記された韓国語で初めて目にした単語は「プルコギ(bulgogi)」だった。韓国が特に自慢できることもなかった時代、外国人に「韓国料理は何が好きですか」と質問すれば、条件反射のようにかえってきた言葉がこれだった。キムチ(kimchi)、焼酎(soju)、オンドル(ondol)などもそうだ。ただしこれらは韓国文化をアルファベットで表記しただけのものにすぎず、これらを見て「うれしい」とか「いやだ」などの感情はなかった。
これに対して「財閥(chaebol)」は翻訳が可能な単語にもかかわらず、韓国式の表現がそのまま使われた。1972年に初めて外信に登場し、ウェブスター辞典やオックスフォード辞典にも正式に掲載され、まさに「世界語」となった。「企業集団」を意味する「conglomerate」とはその感じ方が大きく異なるからだろう。ニューヨーク・タイムズは財閥の特徴として「軍隊式の独裁」や「家族間の怨恨(えんこん)」「貪欲」「傲慢(ごうまん)」などを挙げた。
世界語となった韓国語は「世界人の目」という鏡に映った韓国の肖像でもあるが、全体的に見ればどれもネガティブだった。数年前に「ナッツ・リターン」「コップ投げ」などの事件が起こった際には「甲(カプ)チル(gapjil)」という言葉が海外で報じられた。これを単に「職場でのハラスメント(workplace harassment)」などと訳せば、カプチルにおける人格冒とくのニュアンスが伝わらないのでそのまま使ったという。弱者を人間扱いしない韓国社会の恥ずべき部分を表現した言葉だ。昨年BBC放送は宅配会社の作業員が死亡した事件を報じる際、死亡原因を「過労死(kwarosa)」という言葉で説明した。「コンデ(年寄り)」も「old man」や「senior citizen」と訳してしまうと、「自分より若い人にやたら説教したがる老害」というネガティブなニュアンスが伝わらなくなるようだ。