「なぜ今、金泳三(キム・ヨンサム)の本を出したか、それが気になるか? 忘れられた『民主化の英雄』金泳三を忘れてはならない。YSを再評価し、こんにちの政治の現実においても教訓とすべきだ。このメッセージを伝えたかった」
韓国日報編集局長出身で、文民政権において5年間公報処を率いた「最長寿閣僚」呉隣煥(オ・インファン)氏=82=の第一声だ。呉氏は最近、600ページを超える大著『金泳三再評価』を出版した。11月19日にソウル市瑞草区の自宅で会った呉氏は、「なぜ金泳三元大統領の評伝を出したのか」という質問を切り出す前に、答えを先に出してきた。生涯にわたり「メッセージ」を伝える仕事をしてきた呉氏らしく、書斎には本を書くために集めた各種の資料や書類が床から天井まで層を成して積み上げられていた。呉氏は「他の人に『5年も大臣をやっていた人間がこの程度しか書けないのか』と言われないため、徹底して準備した」と笑った。
「『数十万人が30年間民主化闘争をする中で、ただ一人の人間を養成したとするなら、それがまさに金泳三』という評価もある。なのに韓国社会は『金泳三のやったことなんて何かあるか?』と言っている。過ちはある。だが、功もきちんと評価すべきだ」
1993年から5年にわたり公報処の長官を務め、YSと生死苦楽を共にしてきた呉氏。「別に親しくもなかったのに、長官として起用したんだ」と、淡々と過去を回想した。間近でYSのあらゆる意思決定の過程を見守った。文民政権(金泳三政権)が幕を降ろした直後に書くこともできたし、6年前にYSが他界した際に書くこともできた本を、呉氏はなぜ「今」出したのだろうか。「一人の人間についての話を書こうと思ったら、少なくとも10年くらいは時間を置いて、客観的に光を当てるべきだと思った」と呉氏は語った。「一緒に食事をして酒を飲むだけでは、絶対に評伝らしい評伝は書けない」と言う。「(金泳三の私邸があった)上道洞へ通うのをやめた。悪口も随分言われたよ。『いい目だけ見て裏切った』というんだ。それでも知らないふりをした。それでこそ、きちんとYSについての評伝が書けると思ったからだ」。一つの段落を10回書き直したこともある。文民政権の閣僚として過度にYSを美化したくはなく、実際の姿より格下げしたくもない気持ちで、各段落念を入れて書いたという。資料調査から執筆まで、丸4年かかった。
評伝を書くのは初めてではない。閣僚ポストから退いた後、朝鮮王朝時代の政治史に関連して本を2冊出し、李承晩(イ・スンマン)、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の評伝も書いた。ただし朴正煕評伝は、2016年の朴槿恵(パク・クンへ)大統領(朴正煕元大統領の娘)の弾劾を巡る政局とぶつかって出版できず、コンピューターの中に原稿だけ保存している。呉氏は「いずれは朴正煕についての冷静な評価もなされるべきではないか」と語った。
韓国憲政史上最長寿の閣僚として、自分の話を書くこともできただろう。呉氏は「人々が本を読んで正しい歴史認識を持つのに役立つべきという点で、自分の話よりもYSの話の方がはるかに役立ちそうだったから」と笑った。
呉氏は本を書いた後、私費で1000冊購入して金泳三民主センターに寄贈した。大勢の人に、YSについて知り、彼のことを正確に見てほしいという気持ちからだった。政治が二極化している今のような時代に、左派・右派を併せて「中道」を進むことのできる金泳三元大統領に対する再評価は欠かせないと言う。「金泳三の生涯はまさに韓国現代史にして野党史だ。進歩も保守も否定し難い、誰もが尊重できる大統領でしたよ。どの政治勢力も彼の哲学を理解して『極端の政治』から抜け出し、より良い道へ進んでいけることを望んでいます」
チェ・ヨンジン記者