【コラム】3人に2人は金融リテラシーを持たない国・韓国

 「うちの社員はDC(確定拠出型)とDB(確定給付型)の何が違うのか区別できなかった」

 最近出会った韓国のプライベート・エクイティ・ファンド(PEF)の代表は巨額の投資を決定する社員が自分たちの退職年金の区別すらできなかったと苦笑した。

 退職年金の運用方式には大きく分けて確定給付型と確定拠出型がある。確定給付型は退職年金の運用による利益と損失が全て会社に帰属する退職年金であり、個人が別途運用せず、損失が出れば会社が背負わなければならない。会社は損失を出すことを嫌い、銀行の預貯金商品に主に投資するなど最大限保守的に運用する。

 それとは異なり、確定拠出型は勤労者個人が直接資金を預託した金融機関に運用指示を出す。加入者の大部分は加入時に預金や一部のファンドに投資するよう指示し、それを変更しない。

 ある資産運用会社の代表も「最初最高経営責任者(CEO)として来た時、社員(ファンドマネジャー)には確定拠出型退職年金がなかった。資産運用会社でそれでは話にならないと考え、確定拠出型に変えるよう誘導した」と話した。

 退職年金は働く人たちが退職後に受け取る退職金を運用して還元する制度だ。老後の生活を送るために重要な資金でもある。しかし、資産運用会社のファンドマネジャーや私募ファンドの従事者ですら制度の柱である確定給付型と確定拠出型の区別をできず、自分たちの退職年金で積極的な投資を行えずにいるのが現実だ。

 退職年金だけでなく、年金貯蓄保険と年金保険の違い、税額控除と所得控除の違いなど勤労・事業所得にどのように税金が課税され、どんなメリットや恩恵があるか具体的に知っている人は極めてまれだ。

 世界的なデータ収集機関であるワールド・データ・アトラスによると、韓国の15歳以上で金融リテラシー(お金の知識や判断力)を持つ人の割合は33%だった。3人に2人は金融についてよく知らないことになる。調査対象142カ国・地域で81位にとどまった。初等学校(小学校)、中学校、高校など正規教育過程でまともな金融教育がなく、誰も基礎的な金融知識を教えないからだ。

 当局が全く努力していないわけではない。金融監督院には現在金融教育局という部署がある。18人の職員がおり、学校と金融機関をつなぎ、初等学校と中学校の特別教育をあっせんする事業を行っている。学校が希望すれば、金融教育を行い、教員と児童・生徒が参考にする教科書も出版した。しかし、それだけ力を入れて発行した教科書はまともに使われてはいない。当局者は「先生方も事務などの業務が忙しく、金融教育には関心が高くないのが現実だ」と話した。

 ただ、教科書には児童・生徒が実生活で知るべき金融知識とは距離がある内容も含まれている。17世紀にオランダで投機の影響でチューリップの価格が急騰した「チューリップ・バブル」やハムラビ法典の保険に関する人類最初の記録など、生きた金融知識というよりも世界史の領域に含まれる内容だ。

 韓国社会が金融リテラシーを持てないのは、現在社会を率いる中高年の価値観とも無関係ではない。現在50代以上の人には幼少期に金銭に関することをタブー視して育った人が多い。金銭の話をし、カネを稼ぐこと自体が行儀悪く、尊敬されない行為だという観念が幼いころから注入された。そんな両親の下で育った「MZ世代」も金銭がなぜ重要なのか、どうやって使い、どうやって貯めるのかを全く習ってこなかった。(編注・MZ世代とは1980年代半ばから90年代初めに生まれた「ミレニアル世代」とその後の90年代後半から2010年の間に生まれた「Z世代」を指す)

 さらに残念なことは、金銭の性質、金融の基礎も知らない20-30代の若い層が1日1000%を超える変動性を持つこともある仮想資産、デリバティブ商品に攻撃的に投資している現実だ。

 金融委員会の殷成洙(ウン・ソンス)元委員長は仮想通貨投資に没頭する若い世代について、「誤った道(仮想通貨投資)を行った場合には、大人たちが(駄目だと)言わなければならない」と指摘した。現在は金融当局も若い世代の仮想資産投資を一獲千金を狙った投機的欲求とみて、事故が起きないよう願いながら規制という視線でのみ対処している。

 ここで問いたい。金銭とは何であるかまともに教えたことがあるのかと。来年3月の大統領選後に発足する政権は政治傾向が進歩であれ保守であれ、金融と金銭管理について、若者が本当に必要で望むような教育をやってもらいたい。

チョン・ヘヨン記者

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