【コラム】「冷酷な現実」とかけ離れたK半導体戦略

 市場の冷酷な現実を直接見てきたので気が重い--。

 サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が11月24日、9泊11日の米国出張を終えて発した言葉だ。李副会長は今回の出張でテキサス州テイラー市に170億ドル(約1兆9300億円)を投資し、最先端のファウンドリー(半導体の受託生産工場)を建設することを決めた。サムスン電子による対米投資としては最大規模だ。そうした大規模投資を行っても、サムスン電子の前途に立ちはだかる問題の解決は非常に難しいというのが李副会長の発言の趣旨だ。李副会長は「投資も投資だが、(出張で)現場の声と市場の現実を見た」と話した。

 韓国銀行は今年4月、輸出全体に占める半導体の割合が2019年時点で18%だったと発表した。10年前の2009年に比べ、9ポイントも上昇した。昨年はコロナの影響で半導体への依存度がさらに高まったとみられる。サムスン電子はメモリー半導体世界首位、ファウンドリー世界2位で、米インテルを抑え、世界最大の半導体メーカーの座にある。そんなサムスン電子にもいつでも「危機」が訪れかねず、「生き残り」のために何でもしなければならないと李副会長は話している。

 サムスン電子のライバル企業はサムスン電子以上の投資を通じ、市場の覇権を握り、さらに半導体戦争の勝者になろうとしている。ファウンドリー分野では世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が3年間に米国だけで1000億ドルをつぎ込んでいる。半導体産業で最古参のインテルも200億ドル規模の半導体工場新設を表明している。サムスン電子のファウンドリー分野でのシェアは今年4-6月期時点で14%であり、1位TSMC(58%)に遠く及ばない。今追随しなければならないという状況下で、プライドを回復しようというインテルの挑戦も受けている。DRAM分野でも世界3位のマイクロンが10年間で1500億ドルを投資することを明らかにしている。

 こうした企業投資には必ず国家の政策が関わっている。半導体の覇権争いは個別企業の争いではなく、国同士の争いとして展開している。半導体戦争のもう一つの特徴は、国家には区分があるが、企業は国籍を問わないことだ。誰でも自国に工場さえ設けてくれれば支援を行うというのが現在の半導体国家戦の様相だ。

 米下院で成立目前の「半導体生産促進法(CHIPs for America Act)」は米国内での半導体関連の設備投資に対し、40%の税額控除を認める内容だ。サムスン電子はこの法案に従うと、約20兆ウォンの対米投資のうち、法人税だけで8兆ウォンを節税につながる。日本は来年、政府予算案に半導体企業支援基金の財源として、6000億円を計上。うち4000億円を熊本県に工場建設を決めたTSMCに支援する。

 半導体業界からは半導体に対する国家投資を「優遇」程度にしか考えない韓国政界の安易な現実感覚を批判する声が出ている。半導体、バッテリー、バイオ産業の育成に向けた「国家核心戦略産業特別措置法案」を取りまとめたが、国会では今年5月から半年間、何の議論も行われていない。この法案の付帯法案である「租税特例制限法改正案」の内容も現実とかけ離れていると指摘されている。同法案は技術開発に40-50%、設備投資に10-20%の控除率を適用するとしているが、その程度の優遇では外国企業どころか、国内企業の投資誘致も難しいように思える。

 李副会長は昨年6月、京畿道華城市の半導体研究所で開いた懇談会でも、「厳しい危機状況にある」と語っている。こう見てくると、政界の安易な態度がすなわち李副会長が言及した「冷酷な現実」であり、「厳しい危機」ではなかろうか。個別企業の半導体産業における競争力が高くても国家戦略を欠いている韓国が未来の半導体覇権戦争で負けても、「企業が備えを怠った」と言い、企業のせいにすることはないように願っている。

パク・チンウ電子チーム長

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