【萬物相】ドラマが殺した馬

【萬物相】ドラマが殺した馬

 馬は西部映画、戦争映画、時代劇でおなじみの役者だ。戦場を走っては転倒し、銃や大砲に当たっては死ぬ危険な役もよく引き受ける。そして命まで失う。西部劇映画『地獄への道』=原題:『Jesse James』=に出演した馬は主人公と一緒にがけ下20メートルの川に落ちるシーンを撮って水死した。もっと大きな事故も起こった。ある映画で、馬が暑さで倒れるシーンを撮るためにワイヤーを使い、倒れた馬25頭がすべて死ぬという惨劇が起こった。どちらの出来事も1939年に発生したものだ。これをきっかけに、動物愛護の声が高まり、ワイヤーを使って馬を倒す撮影技法もなくなった。

【写真】韓国KBS大河ドラマ『太宗イ・バンウォン(李芳遠)』第7話の落馬シーン

 サーカスも動物虐待論争に巻き込まれている。国際動物愛護団体が2009年、ボリビアのあるサーカス団に潜入し、動物たちが鎖に縛られてムチや電気ショックを受けている様子を撮影し、暴露した。ボリビア政府はサーカスで動物を使用することを禁止した。その後40以上の国が賛同した。146年の歴史を持つ米国の有名サーカス団も、子ゾウを金ぐしで刺して訓練する写真が公開されて2017年に閉鎖した。

 韓国KBSの大河ドラマ『太宗イ・バンウォン(李芳遠)』に出演した馬が、主人公イ・バンウォンの父で朝鮮初代国王の太祖イ・ソンゲ(李成桂)の落馬シーン撮影した後、死んだというニュースが人々の怒りを買っている。公開された動画を見ると、あ然とする。脚にワイヤーを付けたまま走った馬は、ワイヤーが引かれると地面に頭からつんのめり、首が大きく曲がって折れた。衝撃がよほど大きかったのか起き上がることができず、足ばかりじたばたさせていた。馬の背に乗っていた俳優もはじき飛ばされた。あまりにも無謀で危険なシーンで、見ていても信じがたいほどだった。

 KBSは「事故によって、落馬シーンの撮影方法に問題があることを確認した」「別の撮影方法を探す」とコメントした。あきれた釈明だ。米国がワイヤーを使わなくなったのは80年以上前のことだ。KBSが16年前に製作した時代劇『龍の涙』や、8年前に放映された『鄭道伝(チョン・ドジョン)』にもイ・ソンゲの落馬シーンが出てくるが、どちらも馬を転倒させず、比較的安全な方法で表現していた。安全な撮影法を知らないのではなく、動物に対する最低限の哀れみや安全に対する基本的な考慮がないために起こった事故だろう。

 韓流ファンたちは「これがアカデミー賞を受賞し、『イカゲーム』を撮った国の作品なのか」という。『太宗イ・バンウォン』はKBSが「受信料の価値を証明する」として5年ぶりに放映している大河時代劇だ。KBS公式ホームページの掲示板には「私から取った受信料で馬を殺すのか」という抗議も相次いでいる。受信料の価値を証明するには、政権応援団式の報道からまず変えなければならない。話すことのできない動物の命も大切にしなければならない。世界は変わり続けている。この流れに遅れれば淘汰(とうた)されるしかない。

キム・テフン論説委員

<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c) Chosunonline.com>
関連ニュース
関連フォト
1 / 1

left

  • 【萬物相】ドラマが殺した馬

right

あわせて読みたい