14日(現地時間)、米ニューヨーク市マンハッタンの中心街にある地下鉄駅。乗車券を買って暗い駅構内の階段を歩いて降りてみた。すると、プラットホームに立っていた乗客10人余りの目が一斉に記者に向けられたが、すぐに安堵(あんど)したかのように視線を戻した。人々は線路からできるだけ遠く離れ、ホームの中央に集まったり、壁に背中を付けて地下鉄を待っていた。
ニューヨーカーたちのこうした行動は最近よく見る風景の一つだ。先月15日にタイムズ・スクエア駅で、ウォール街のコンサルティング会社に勤める40歳の中国系女性が精神疾患のあるホームレスに突き飛ばされ、ホームに入ってきた車両にひかれて死亡して以来、いっそう激しくなった。ニューヨークにはソウルの地下鉄のようなホームドアがない。ニューヨークで欠かせない交通手段である地下鉄に乗るたびに、「本当に乗らなければならないのか」という不安に襲われる。やむを得ず乗った後も、超緊張状態で周囲を見回すのが習慣となった。
不安なのは地下鉄だけではない。同じ日、よく行く食料品店に立ち寄ったところ、「買い物後、車に荷物を載せる時は、必ず貴重品を先に入れて、素早く車のドアをロックしてください」という案内文が配られていた。何ごとかと尋ねると、店員は「先日、韓国系の中年女性が一人で買い物をした後、トランクに物を載せる間にハンドバッグを盗まれた」「店舗内の万引きも急増していて頭が痛い」と答えた。
米国最大都市のニューヨークで殺人・強盗・暴力などの凶悪犯罪が急増している。米連邦捜査局(FBI)が昨年発表したところによると、新型コロナウイルスの流行が始まって以降、全米で殺人が30%も急増し、1960年代以来となる最大の増加幅を記録したという。ニューヨークやロサンゼルスといった大都市では増加幅が2倍に達したとのことだ。
その原因をめぐって、進歩系陣営では「違法銃器が多く、社会福祉予算の不足でホームレスや前科者の管理ができていないためだ」と主張している。だがその一方、保守系陣営では「『ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大切だ)』デモの余波で警察が権限を制限され、治安の空白が広がったためだ」と言っている。米紙ワシントン・ポストは「米国全域で警察の予算が削減され、警察官の士気も下がっており、治安に携わる人員が不足している」とした上で、「新型コロナ流行が招いた社会的対立要素が一気に押し寄せて『犯罪のパーフェクトストーム(複数の厄災の同時発生)』を起こしている」と分析した。
中でも、こうした対立による怒りの矛先が向けられているのがアジア系市民だ。昨年、米国の大都市16カ所でアジア系が対象になった犯罪は159%増えたが、ニューヨークでは450%も激増した。事実、アジア系市民は人数が少ないうえに小柄で、通報や報復を嫌がる傾向があるため、多人種社会の米国で犯罪のターゲットになりやすい。さらに、「新型コロナは中国ウイルス」という一部の政治家の扇動で、アジア系全体がえたいの知れない不安におびえて暮らしている。