【コラム】「K防疫」という名の精神勝利

 金富謙(キム・ブギョム)首相は30日「オミクロン株によるパンデミックはまさに戦争だ」とした上で「戦争中は国内の一致団結が何よりも重要だ」と呼び掛けた。ここまでは良かった。しかしその後に「防疫の成果そのものはおとしめてはならない。われわれ自らが国民の士気を下げることがないようにしたい」と付け加えた。外部からの批判に対する不満を遠回しに語ったようだ。

 しかし韓国政府がこんな不満を口にする資格があるか疑問だ。今年1月にオミクロン株への感染が最初に確認され、それから1カ月が過ぎた後に光州や全羅南道など四つの地域を中心にオミクロン株の防疫対策が発表された。その際には専門家の間から「1カ月前に対策を求めたときは何もせず、戦争が起こったので急きょ民防衛訓練をするのか」といった批判の声が相次いだ。「専門家の反対を押し切って導入したソーシャルディスタンス緩和はオミクロン株の感染拡大に火を付けた」というのが大方の見方だ。最近は「オミクロン株は季節性インフルエンザだ」などの発言が力を得ている。コロナ事態以降、最多の死亡者と感染者の記録が次々と更新されているが、それでも今の状況をいかに安易に考えているかはこんな言葉からも分かる。恥ずかしい限りだ。

 今や韓国国内のコロナによる死亡者数と感染者数は世界最悪のレベルに転落してしまった。国民の苦痛はもはや説明するまでもない。言葉だけでも政府が防疫の混乱と失敗を率直に謝罪すべきだ。ところが文在寅(ムン・ジェイン)大統領は今月12日にコロナによる累計の死亡者数が1万人を超えた際「遺族の悲しみと困難な状況を共に分かち合うことを希望する」とSNS(会員制交流サイト)に書き込んだだけだ。

 謝罪はめったにしないが自慢は素速い。青瓦台(韓国大統領府)は20日、過去5年の国政の成果を記載した白書「文在寅政権国民報告」を公表し、その中で「K防疫」を自画自賛した。もう何回目になるだろう。白書には「国民の高いワクチン接種への参加でわが国は世界的にも高い水準の予防接種率を達成し、オミクロン株が拡大する中でも重症化率と致命率は減少している」「世界が感嘆したK防疫」などの内容がある。それから3日後にコロナによる1日の死亡者数は469人と過去最高を記録し、その後も状況はさらに悪化している。コロナによる死亡者全体の3分の1を占める全国の療養病院や療養院は「集団感染」の温床とされ大混乱しており、葬儀場や火葬場はコロナの影響で大混雑だ。

 アルベール・カミュは小説「ペスト」の中で疫病が襲った後の都市の日常を描写し「この全てのことは英雄主義とは何の関係もない。ペストと闘う唯一の方法は誠実さだ」と訴えた。もしK防疫が成功していれば、それは防疫現場を誠実に守ってきた医師、看護師、救急隊員、保健所の職員をはじめとする多くの国民のおかげだ。誠実さをあざ笑い、英雄主義を持ち上げる人間たちはわずかな成果も長く大げさに語りたがる。防疫は治績ではなく政府としてやるべき基本だ。基本さえまともにできず称賛ばかりを望むのは恥知らずな態度だ。K防疫の精神勝利はもう聞きたくない。

アン・ヨン記者

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