【コラム】「検察捜査権完全剥奪」という偽りの改革

 韓国で検察・警察の捜査権調整が行われた直後の昨年初め、親しい記者が名誉毀損の疑いで告発され、事件の経緯を近くで見守った。特定の傾向を帯びた市民団体が政治的目的で告発した事件なので、難なく「嫌疑なし」で決着するかに見えた。警察は随分複雑な捜査を経て、不送致の決定を下したが、検察は不十分な部分があるとして、再捜査を要求した。ところが、警察は要請内容を明確には理解できなかったようだ。警察は「はっきり言って、検察が何を補完しろと言っているのか分からない」と話した。以前であれば、検事が直接捜査を補完し、事件を整理することが可能だった。しかし、捜査権の調整で警察が捜査した事件について、検察が直接補完捜査を行うことが困難になり、今回のようなことが起きた。結局告発状の受理から1年ほどしてようやく「嫌疑なし」で処理された。

 この事件は特殊なケースではない。検察・警察の捜査権調整が行われ、6大犯罪を除く事件は警察の担当となり、一般刑事事件の処理が遅れていることは法曹界にいる人物であれば誰もが知っている。大韓弁護士協会が昨年、弁護士を対象にアンケート調査を行ったところ、約7割が捜査権調整後、事件処理に深刻な遅延が生じていると感じていると答えたほどだ。文在寅(ムン・ジェイン)政権が検察改革の名目で強行して成し遂げた検察・警察の捜査権調整による被害者は結果的に国民だ。

 共に民主党が現在推進している「検察捜査権完全剥奪」は、検察の直接捜査範囲である6大犯罪についても、新たに「重大犯罪捜査庁」を設置し、そこに移管することが骨子だ。そうなれば、結果は火を見るより明らかだ。重大犯罪捜査庁は一般刑事事件よりも政治的負担が大きい6大犯罪の事件処理を先送りし、事件は疑問点を残したままでお蔵入りとなる可能性が高い。重大犯罪捜査庁だが、幹部公務員のみを捜査する目的で新設されながら、早くも廃止論が出ている高位公職者犯罪捜査処(公捜処)の後継組織になるとみられる。

 民主党は新政権発足までに検察捜査権完全剥奪を推進するとしている。時期的に正しくなく、名分もない。検察捜査権完全剥奪が国民の生活に重要な問題であれば、政策推進力があった文在寅政権初期に取り組むべきだった。当時はなぜ、6大犯罪の捜査をそのまま検察に委ね、大統領選で敗れた李在明(イ・ジェミョン)氏に対する捜査が山積したこの時点で捜査権完全剥奪を推進するのか。公捜処さえつくれば、公職社会が浄化されるかのように主張してきた民主党が重大犯罪捜査庁を設置しなければ、6大犯罪の捜査がまともに行われないと主張しても、国民は信用できるだろうか。4年間だけ一時的に国民から立法権の委任を受けたにすぎない国会議員が党利党略でその権限を思うがままに使ってもよいのか。

 検察改革は必要だが、国民が被害者となる「偽りの改革立法」はここでストップするのが道理だ。民主党が検察改革に真剣に取り組むならば、新政権が正しい方向に改革を進めるように、巨大野党としてけん制と協力を行えばよい。

尹柱憲(ユン・ジュホン)記者

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