プーチン大統領の暴走を支える「戦争経済の総司令官」

ロシア連邦中央銀行のナビウリナ総裁

 ウクライナに侵攻したロシアが国際社会の強硬な制裁に耐えて攻勢を継続できている背景に、プーチン大統領の側近であるエリヴィラ・ナビウリナ・ロシア連邦中央銀行総裁(58)の存在が挙げられる。最近、ロシアが国家不渡り(デフォルト)の危機を無事に乗り越えたことを受け、「プーチンの凶悪な戦争を助ける最高の加担者」(英ブルーベイ・アセット・マネジメント)、「西側の経済制裁に対抗するロシアの秘密兵器」(米ポリティコ)といった評価が出ている。「神業に近い通貨政策は学ぶべきところ」(ロンドン・ビジネススクール教授)という分析もなされた。ナビウリナ総裁は自国のために外国の制裁をうまく防いでいるが、結果的にはプーチン大統領が戦争を継続することになり、「世界経済の逆賊」に該当するという非難もある。

 ロシア「戦争経済」の総司令官、ナビウリナ総裁の最も新しい「業績」は、ロシアの通貨ルーブルの防衛だ。ルーブルは、西側の制裁が本格化した今年3月の時点で1ドルあたり139ルーブルにまで暴落したが、5月13日現在、1ドルあたり65ルーブルを記録し、戦争直前(1ドルあたり80ルーブル)よりむしろ価値が上がった。インフレや米国連邦準備制度理事会(FRB)の利上げにより各国の為替レートが悪化している状況で、「戦犯」であるロシアは全く逆に進んでいるのだ。米ブルームバーグ通信は11日、「対ドルのパフォーマンスで見ると、今年最高の通貨はルーブル」と評した。

 「強いルーブル」を作った過程はこうだ。ナビウリナ総裁は今年2月の開戦直後、資本の移動に制限を加えると同時にロシアの基準金利を9.5%から20%へと2倍以上も引き上げた。また、企業に対し、ドルやユーロの保有分の80%をルーブルに交換するよう強制した。銀行や為替業者が個人に対してドル・ユーロを売れないようにする措置も取った。外国人がモスクワ証券取引所で株式を処分することも禁じた。こうした緊急措置で、2カ月にわたって急場をしのぎ、先月29日には経済の沈滞を防ぐため金利を14%に大きく引き下げた。

 ロシアが外貨不足で対外債務の利子を払えず、国家不渡り(デフォルト)に陥りかねないという見方があったが、その危機を乗り越えたのだ。欧州によるロシア産天然ガス・石油の購入が完全に途絶えてはいない上、中央銀行の強力な資本コントロールが支えになった-と分析されている。こうした中、国際的に石油の価格が上昇し、ロシアの第1四半期の経常黒字は史上最高となる580億ドル(現在のレートで約7兆4930億円。以下同じ)を記録した。プーチン大統領は先月、「ロシアは西側の制裁に立ち向かって勝利した」とし、「中央銀行の労苦をたたえる」と語った。

 ニューヨーク・タイムズ紙やウォールストリート・ジャーナル紙は、ナビウリナ総裁について、およそ20年にわたりプーチン大統領の絶対的な信頼を得てきた最側近だと伝える。運転士の父親と工場労働者の母親の間に生まれたナビウリナ氏は、モスクワ国立大学を卒業後、ずっと経済官僚として働いてきた。プーチン政権の初期からクレムリン宮殿の最高経済顧問、経済発展相などを歴任し、2013年にはロシアで初めての女性の中央銀行総裁となった。夫も経済学者だ。

 ナビウリナ氏はロシア「戦争経済」の設計者といえる。ナビウリナ総裁が経済の全権を握った翌年の2014年、プーチン大統領はウクライナのクリミア半島を強制併合した。当時、西側の制裁や原油価格の暴落、急激なインフレが重なって経済は満身創痍となったが、ナビウリナ総裁の指揮の下、ロシア経済はわずか1年半で回復傾向に戻った。2017年から本格的な「経済要塞化」作業に着手してオイルマネーを積み上げ、今年初めには6430億ドル(約83兆690億円)という過去最高の外貨保有高を確保した。ドルの比率を40%から11%に減らす一方で金や中国元、ユーロの比率を大幅に増やし、プーチンに「戦争の実弾」を与えた。

 実はウクライナ侵攻前まで、西側ではナビウリナ総裁について友好的な見方が多かった。2014年には米フォーブス誌の「世界で最も影響力ある女性」に選ばれ、世界の経済リーダーのシンポジウムに当たる米連邦準備制度(FRS)ジャクソンホール会議に毎年出席していた。クリスティーヌ・ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁は、国際通貨基金(IMF)総裁を務めていたころ、ナビウリナ氏を「中央銀行総裁の模範」と激賞していた。経済状況や政策の方向をさまざまなブローチファッションで表現するといい、「ロシアのマデレーン・オルブライト(元国務長官)」とも呼ばれた。

 ナビウリナ総裁は今年2月の開戦直後、プーチン大統領に「辞任したい」と意向を表明したという。西側の制裁は、クリミア半島併合時の8年前とは次元が違い、いくら通貨政策で防いでもロシアの実体経済が崩れることは避けられないという重圧感が作用したためといわれている。実際、ロシア政界の一部では、外貨凍結やインフレの責任をナビウリナ総裁に押しつけ始めた。ところがプーチン大統領は「あなたが退いたらロシア経済はさらに破綻する」とし、先月の議会でナビウリナ総裁を3期続けて任用する案を通過させた。ナビウリナ総裁は来月から5年の任期を再び開始するが、彼女の行く手には、過去9年間の試練よりはるかに困難な道が待っている。

ニューヨーク=鄭始幸(チョン・シヘン)特派員

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