一生家族に縛られ孫育てまで…韓国60代女性の「うつ」急増、伝統的なジェンダーロール影響

家族に縛られた人生「もう自由になりたい」

【韓国ジェンダーリポート2022】〈第10回〉

 定年退職した夫と暮らすイムさん(66)は午前8時半に朝食を作り、家の中を掃除してから、また昼食の用意をして皿を洗う。午後になると、保育園から帰ってくる3歳の孫娘を迎えに行き、娘や婿が会社から帰ってくるまで世話をする。2週間に一度、週末に慶尚北道浦項市内の実家の母の所へ行き、介護をする。イムさんは「40年以上も育児や家事から抜け出せていない。食事の支度を自分でしたことのない夫に一日三食作ってやり、孫や老母の世話までしなければならないので、週末も休みなく働くはめになった」と話す。結婚前まで勤めていた銀行を辞めたことも、夫に料理を教えなかったことも後悔しているそうだ。

 1940-60年代に生まれて現在高齢になった女性たちの「うつ」は深刻だ。健康保険審査評価院によると、2020年にうつ病と診断された男性は20代(5万1919人)が最も多かったのに対し、女性は60代(9万6249人)が最も多かった。男性のうつ病の発症率は40-50代と60代の間に大きな差はないが、女性は60代になるとうつ病の発症率が著しく高まった。

 この世代の女性たちは、男児を強く望む思想や家父長制により教育や就職の機会に恵まれず、主に育児と家事労働に専念してきた。問題は、過去の固定的な性役割(ジェンダーロール)のため、家事・育児の負担が高齢になっても持続するということだ。夫が退職すると支度しなければならない食事の回数が増え、子の経済活動を保障するため孫の世話もしなければならなくなる。実家の親や夫の親が生きている場合は介護も重なり、「三重苦」となる。

 公共保育施設の不足は30-40代女性の「経歴断絶(キャリア中断)」だけでなく、女性高齢者の生活の質にもマイナスの影響を及ぼす。保健福祉部の「2018年保育実態調査」によると、育児を誰かに手伝ってもらっている家庭の83.6%は「祖父母に手伝ってもらっている」と回答したという。祖父と祖母で比べると、祖母が育児を担う割合の方が高い。子どもをよく抱っこする人々に多いため「育児病」と呼ばれている手根管症候群は、患者の75%が50代以上だ。

 女性高齢者に偏った育児で家庭内に確執が生じたりもする。ソウル大学医学部のユン・ヨンホ教授チームが昨年、満19歳以上の一般国民1000人を調査した結果、「妊娠・育児により家庭内で深刻な危機が生じることに共感するか」という質問に、60代の92.8%が「共感する」と答えた。

 教員を務めて定年退職したカンさん(65)はスイミングや韓国画を習おうと思い、小さな孫の世話をしてほしいと言ってきた娘の依頼を断った。娘はこの1年間、カンさんと行き来がない。カンさんは「仕事・育児・家事をして、母親・妻としての責務を果たしたと思っている。娘も困っているだろうが、今は私がやりたいことだけして暮らしたい」と語った。

 これらの人々はジェンダー平等意識の高い娘や嫁に大きな違和感を抱くこともある。自身がやってきた旧正月や秋夕(チュソク=中秋節)の家事労働を娘や嫁に強要できないからだ。夫と自営業に携わってきたチェさん(68)は「嫁も働いているから、祭祀(さいし=旧正月や秋夕の時に先祖をまつること)に来ない。いつもは祭祀の朝に『行けなくて申し訳ありません。祭祀にかかるお金は送りました』と電話してくるのに、この間は電話もなかった。1人で祭祀の支度をしていて、『なんで私がこんなことをしているんだろう』と思えてきて、情けなかった」と話した。医者をしている娘の子2人の世話をしていて腰を痛めたイさん(65)は「私は小さいころ、勉強もよくできたが、兄の学費が優先だったためにソウルにある大学に行けず、地方大学を出て教師になり、結婚して辞めた。だから『娘だけは素晴らしい専門職の女性に育てたい』と思ったが、そのためにこの年まで苦労するとは思わなかった」と語った。

〈特別取材チーム〉金潤徳(キム・ユンドク)週末ニュース部長、キム・ヨンジュ社会政策部次長、卞熙媛(ピョン・ヒウォン)産業部次長、キム・ギョンピル政治部記者、ユ・ジョンホン社会部記者、ユ・ジェイン社会部記者、ユン・サンジン社会部記者

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