何も報酬を上げなかったわけではない。福祉部が昨年7月に発表した保健医療人材実態調査の結果によると、医師の年平均収入は2億3070万ウォン(約2540万円)で、過去10年間の保健医療職種の中で最も早い速度(年平均5.2%)で増加した。このような医師たちの収入は基準によって多少異なるが、購買力平価(PPP)の為替レート基準ではOECD(経済協力開発機構)で最高水準だ。OECD主要国では医師の収入が看護師の2、3倍だが、韓国は5倍以上となっていることも参考になる。福祉部が報酬交渉で医師に振り回され、医師全体の収益は大幅に増加したものの、いざ国民に必要な必須医療は目も当てられない水準にまで追いやってしまったのを、これほどまでに端的に物語っている数値もない。このような条件が、医学部入試ブームに影響を及ぼしたという点は言うまでもないだろう。
米国では、必須医療に携わる医師に対しては、経済的補償がしっかりと整っている。心臓手術や脳手術を受け持つ医師は、年俸が10億ウォン(約1億1000万円)前後、心血管手術を受け持っている医師は7億-8億ウォン(約7700万-8800万円)で、一般内科医(約3億ウォン=約3300万円)の2-3倍だという。技術を要する手術を担当する医師に対してはその価値を認め補償が伴うため、自然と専攻医が集まる仕組みとなっている。韓国もいち早くこうした構造に向かっていくべきだったのではないか。
これまで福祉部の報酬調節政策がある程度であっても作動していたら、必須医療分野は引き上げ、報酬が必要以上に高い分野は抑える政策を着実に展開していたら、今ごろはどうなっていただろうか。必須医療に携わる医師たちがこれ以上はもうできないということも、医師が医学部の定員拡大に反対する名分も、著しく減ったに違いない。保健福祉部のチョ・ギュホン長官は最近になって「福祉部がいち早く取り組むことができる医療報酬から見直す」と述べた。それほど自信を持ってできると言える内容を、なぜ20年にもわたって怠ってきたのか理解に苦しむ。これに対し、福祉部から自省の声が一切上がってこないのも問題と思われる。
キム・ミンチョル論説委員