年齢が官位代わりになる韓国社会【萬物相】

 先日、出勤するためにバスに乗っていたときのことだ。誰かが近づいてきたと思ったら、いきなり「おい、どけよ!」とぞんざいな口調(タメ口)で言われた。年配の方だったので、言われなくても席を立とうと思っていたところだったが、これにはあきれてしまった。社会の至る所でこのようなことが起きている。年配というだけでやたらと偉そうな口を利く人が少なくない。もめ事が起きても最終的に「お前、何歳だ?」と年齢を問題にするのが韓国社会だ。「年齢が官位」という言葉があるのも韓国だけのようだ。

【写真】文大統領「ほどほどにしなさい」…野党「怖っ、息子さんの言葉遣いには理由があったんですね」

 こうした風土の背景には、「長幼有序」(年長者と年少者との間にある道徳的・社会的な秩序のこと)という儒教的な考え方があるといわれる。しかし、漢学(漢文や中国に関する学問)の専門家らによると、長幼有序は「社会における人間関係ではなく家族内部での上下関係を指したものであって、それも年齢ではなく血族の親等数を基準にした規範だった」という。ところが、いつの頃からか「年齢で上下関係が決まる」という誤った解釈で使われるようになったのだ。敬語とタメ口を厳格に区別する韓国語の特性のせいだという分析も聞かれる。初対面の相手にまず年齢を尋ねるのもそのためだといわれる。しかし、日本は韓国と同様に敬語が発達しているにもかかわらず、相手に年齢を尋ねることはあまりしない。日本語のタメ口というのは年齢の上下で決まるものではなく、親密さを表す手段だからだ。

 何かにつけて年齢を基準にする風土は、社会的な非効率さも生み出す。若い後輩が先に昇進すると、元気に働ける先輩たちが退職するというケースがあるが、これは社会的損失に他ならない。年齢で上下を決める文化と、複雑で丁寧すぎる敬語が、組織の中での生産的かつ率直な議論を妨害しているという指摘もある。

 このような文化から脱却しようという取り組みが、さまざまな所で展開されている。出版社「民音社」の編集部は昨年2月から、同僚同士が敬語を使わずに話すようになった。「礼儀をわきまえたタメ口」を使おうという意味で「平語体」と呼んでいる。タメ口で話すにしても、「おい」「お前」と言ったり、名前に「~ちゃん」と付けたりはしない。部長クラスに当たるパク・ヘジン・チーム長は「代理職や平社員も私のことを『ヘジン』と呼んで自由に意見を述べている」と話した。タメ口での会話の事例を紹介してそのメリットを分析した本『敬語をやめる勇気』も先ごろ出版された。これらは全て、年齢で上下を決める凝り固まった序列文化から脱却するための取り組みだ。

 年齢による序列文化が最も崩れそうにないのが政治の世界だ。宋永吉(ソン・ヨンギル)共に民主党元代表が著書の出版記念会で、「現金入り封筒ばらまき事件」に自身が関与したという疑惑に反論すると同時に、年下の韓東勲(ハン・ドンフン)法務部(省に相当)長官を「若造」呼ばわりした。論理的な是非を問うのではなく、年齢だけで相手を見下したのだ。一方で、年上の人に対して、わざと無礼な態度を取ることで相手を侮辱するというケースもある。李俊錫(イ・ジュンソク)国民の力元代表が、父親ほど年の離れた安哲秀(アン・チョルス)議員に対し、「安哲秀議員」ではなく「安哲秀さん」と肩書き無しで呼んだのもそのいい例だろう。

金泰勲(キム・テフン)論説委員

<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c) Chosunonline.com>
関連ニュース
関連フォト
1 / 1

left

  • ▲イラスト=イ・チョルウォン

right

あわせて読みたい