昨年9月1日、富士山頂から15キロメートル離れた静岡県富士市の木材展示場。ヘルメットをかぶった住民約20人は無線から「富士山が噴火間近、緊急避難」という絶望的な声が流れると、すぐさま自衛隊のトラックに乗った。トラックは10キロメートル離れた1次避難所に移動した。富士山が噴火すれば溶岩が3時間以内に到達するという大渕地区では住民120人がバスや自衛隊車両に乗って緊急避難した。緊急事態発生時に遺体安置所となる市立体育館には医師ら医療関係者150人が集結した。

 静岡県が昨年に初めて実施した「住民参加富士山噴火対応訓練」には学生・住民13万人が参加した。参加者らは「避難車両が一気に集まって渋滞が発生した。実際に噴火があったら、きちんと避難できるかどうか心配だ」と言った。

 神奈川・静岡・山梨の3県は今月19日、富士山の噴火に備えた初の合同訓練を実施する予定で、75万人の避難計画を立てている。1990年代までは不安があおられることを懸念し、富士山噴火を口にすることをためらっていたが、そうした自治体が率先して実際の噴火を想定した訓練を実施することになったのは「富士山はいつでも噴火する可能性がある」という認識が広がっているためだ。日本人が富士山噴火を現実的な脅威と感じている三つの理由を挙げてみよう。

(1)M9の地震後は例外なく火山が噴火

 2011年に発生したマグニチュード9.0の東日本巨大地震が長期間にわたり富士山の地下マグマを刺激し、噴火を誘発する可能性がある。大地震が発生すると、地殻変動がマグマ自体を揺さぶって活性化したり、マグマを取り巻く岩石に亀裂が入り火山を噴火させたりする。東日本巨大地震が発生した11年、日本では約1万回の地震が発生した。特にマグニチュード4以上の地震は3000回に達し、富士山のマグマと地殻に大きな影響を与えた。

 事実、1950年以降、マグニチュード9以上の大地震は全世界で5回発生しているが、東日本大震災以外の地震は全て火山の噴火につながった。04年のスマトラ島沖地震(マグニチュード9.2)では発生から4カ月後、1年3カ月後、3年後に連鎖的に火山が噴火している。火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長は「マグニチュード9以上の地震が発生した場合、数日から数年後には必ず火山の噴火が発生している。日本だけが例外となることはない」と警告した。日本の気象庁は否定しているが、先日の御嶽山噴火も東日本大震災の影響という説がある。

(2)発生確率88%、東海地震が噴火誘発の可能性も

 日本政府が「30年以内の発生確率は88%」と発表した東海地震が、隣接する富士山のマグマを刺激する可能性もある。地質学の「プレートテクトニクス」では、地球は10以上の岩盤(プレート)で構成されているとみている。年間数センチ移動するプレートとプレートがぶつかる境界で発生する地殻の破砕やねじれにより大規模な地震と津波が発生するという理論だ。富士山近くの駿河湾でフィリピン海プレートとユーラシアプレートがぶつかっているが、ここでは100-150年周期で東海地震が発生している。1707年に同地域で大地震が発生、その49日後に富士山が噴火した。日本政府は1854年のマグニチュード8.4の地震(安政東海地震)以降、160年間にわたり同地域で地震がないことから、確率から見て地震の発生が迫っているとして対策を講じている。

(3)富士山で異常現象頻発

 日本人が「富士山は活火山だ」ということを実感したのは2000-01年、普段は1日20回程度だった低周波地震が100回以上に急増したときだ。低周波地震とは体感できないくらいの小さな地震で、マグマの活動が活発になることで発生する。東日本巨大地震以降、富士山の湖の水位が急に下がったり、温泉が吹き出して地割れしたりした現象も頻繁に見られたが、これもマグマ活動と関連があるという説がある。

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