20年前の10月21日、建設後わずか17年の聖水大橋を渡っていた市民の足元が崩落して32人が亡くなった時、韓国のメディアは「明日はわが身」と自嘲した。不幸にも韓国の実態は、1994年と比べてもさほど変わっていない。むしろ「いつどこで私の足元が崩れ落ちるか分からない」といった不安は、さらに拡大している。

 専門家たちは「韓国社会が昔に比べてより安全になったと思ったらそれは大間違い」と言い切る。災害の専門家である江南大学都市工学科のキム・グンヨン教授は「都市化が進んだことで韓国社会の危険要素はさらに拡大し、複雑になった一方で、施設は老朽化しているのが原因」と説明する。こうした現実は、さまざまな所で市民の足元を脅かしている。散歩していた住民が地上から姿を消し、道路を走っていた乗用車が逆さになって転落する。マンションのエレベーターが急降下し、デパートや地下鉄のエスカレーターが逆走する。先日は城南市板橋で野外ライブ会場の大型換気口の鉄製ふたが崩落、その上に上っていた16人が死亡し、11人がけがをする大惨事にまで発展した。旅客船「セウォル号」の悲劇からわずか6カ月後に起こった今回の事故は、厳重な注意を払わない限り韓国人は今もセウォル号に搭乗しているのと同じ運命であることを物語っている。「歩く所には薄い氷が張っており、地雷が埋まっていて、断崖絶壁といった現実」が2014年10月の韓国の姿だ。

 慶尚南道昌原市のマンションに住むイさん(65)は今年8月、早朝に近くの歩道を散歩していたところ、突然姿を消してしまった。イさんの足元に幅1.2メートル、深さ1.5メートルのシンクホール(道路下に空間が生じ崩壊してできる穴)が現れ、その中に吸い込まれてしまったのだ。

 シンクホールは幸い浅く、イさんは大事には至らなかった。しかし、その後は散歩に出掛けるのが恐ろしくなったという。今年8月22日にミニバンを運転し、ソウル市瑞草区教大駅近くの瑞草大路を走行していたAさんは、突然前が真っ暗になる体験をした。道路の真ん中が陥没しミニバンのタイヤが穴に落ちてしまったのだ。シンクホールの大きさは、横1.8メートル、縦1.3メートル、深さ1.5メートルだった。Aさんも幸い命に別状はなかったが、その日以降、やはりハンドルを握るのが恐ろしくなったという。

 昨年10月、京畿道金浦市の国道48号線では、仁川の警察署に勤める警官(45)が運転していた乗用車が道路上のポットホールを避けることができず、そのまま中央分離帯に衝突した。この事故で警官は死亡した。

 シンクホールとポットホール(道路に空いた小さい穴)は、ここ10年でソウルに49万5636カ所も発生した。さらにこれによる交通事故は2106件に上った。1日1件の割合で事故が発生している計算になる。特にシンクホールの発生件数は2010年の435件から昨年には854件に急増した。最近、簡易投稿サイト「ツイッター」上では「シンクホールから換気口まで足元に気を付けなければならない不安なご時世だから、最近のキーワードは『緊張しろ、みんな!』で決まり」といった書き込みが幅を利かせている。

 足元が危ないのは室内空間も同様だ。会社員のペさん(25)は昨夏以降、古い建物を訪れた場合はエレベーターではなく階段を利用する。今年8月、ソウル市江西区の15階建てのマンションで転落の恐怖を味わったからだ。停止したエレベーターに閉じこめられていた間、ペさんは床が外れはしないかと冷や汗をかいた。ぺさんは「転落事故のニュースが多かったためか、エレベーターがそのまま落ちてしまうのではないかと心配になった」と当時の様子を振り返った。今年9月には、光州広域市のマンションで主婦Cさん(48)が12階からエレベーターホールに転落して死亡した。12階に到着したCさんが足を踏み出した瞬間、エレベーターが突然上昇してしまい、Cさんはそのまま地下に転落したのだ。Cさんの命を奪ったエレベーターは事故当日、安全点検を受けたばかりだった。

 昨年7月、盆唐線の野塔駅ではエスカレーターが逆走する事故が発生し、39人がけがをした。事故の8日前に業者が点検し、「異常なし」との判定を受けていたが、偽物部品を使用したことが発覚、点検体系の落とし穴が表沙汰となった。今年8月にも、ソウル市の鍾路3街駅でエスカレーターが急に逆走して市民10人がけがをした。安全行政部が今年6月から1カ月間にわたって高層ビルの昇降機(エレベーターとエスカレーター)8379台を点検した結果、改善が必要な昇降機が319台に上った。全国の昇降機は20年前の約3万9000台から現在では約49万6000台と10倍以上に増えた。事故件数も1994年の19件からここ5年間の年平均は112件と6倍近くに増えた。

 江南大学都市工学科のキム・グンヨン教授は「多目的利用施設が増えたことで、都市構造が複雑になり、人口と交通量が増えた分、政府は市民に対して正確な安全情報を伝えるべき。多くの生命を預かっている各種の乗務員やエンジニアのような職業群に対する教育は、さらに徹底されるべきだ」と説明した。

 嘉泉大学建築工学科のパク・ヒョンジュ教授は「日常の安全に備えた細かい安全管理までも国家が法で規制するのは困難なため、地方自治体が各地域の特色に合わせて条例や指針をまとめ、日常の安全を徹底的に管理しなければならない」と話した。延世大学社会環境システム工学部のチョ・ウォンチョル名誉教授は、市民一人一人の自覚を強調した。チョ名誉教授は「市民一人一人が常に自分の行動が危なくないか確認する習慣を身に付け、自らを守らなければならない」と話した。

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