国際総合
鳥取のパン屋さん、渡邉夫妻の「静かなる革命」
「小さくても本物をやりたい」
このたった1行の文が40代男性の胸に響いた。組織の歯車になって無味乾燥な人生を送ってきた人々にとって、『田舎のパン屋で資本論を焼く』(原作タイトル『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』)は一筋の光だった。レールを外れた人生でも幸せになれるという希望を与えるこの本は、昨年夏に韓国で出版されて10刷に達し、ロングセラーの仲間入りをした。本の著者であり、パン屋「タルマーリー」の店主でもある渡邉格(わたなべ いたる)さん(44)夫妻の「静かなる革命」は今も続いている。自家製天然酵母パンを通じて自然や地域経済の循環を成し遂げようという情熱は、今年春に店を岡山県から鳥取県に移してからいっそう強くなった。「より良いパンを作るため、森がうっそうと茂り、水が豊富な場所にやって来ました。『本に出ていた住所を見て訪ねてきたのに、店がなかった』という読者がいると聞いて、本当に申し訳ない思いです」
鳥取市から車で20分離れた智頭村。築100年の家に店を構えていた岡山のころとは違い、廃校になった小学校にパン屋を開いた。「新たな挑戦」にはもっと広いスペースが必要だった。何が何でも製粉機を設置したかったからだ。「村に製粉機があれば小麦を栽培する農家が増えますから。企業で使う最先端の製粉機ではなく、1970-80年代の古い製粉機を購入しました。荒いけれども小麦の風味が強く残ります」。酵母については、工業的に培養したイーストではなく、自然の中で生きているさまざまな酵母を増やした天然のものを使ってパンを作る。米・大麦・小麦など自然栽培した穀物のみを使用し、砂糖やバターは使わない。
もう一つの挑戦はビールだ。「一生懸命働いた後で飲む1杯は自分の手で作りたいという夢を20代のころから見てきました。発酵の専門家の立場から見れば、その頂点は酒にあるそうです。ビールとパンの間にも循環が起こります。10リットルのビールを作ると、2リットルの酵母が沈殿します。これでパンを作れば工程が減り、パンの味も最高のものになります」
格さんがパン職人なら、妻の麻里子さんは店の経営を背負って立つ最高経営責任者(CEO)だ。有機農産物の卸売会社に勤めていた格さんと社内結婚した。天然菌の採取に失敗し、生地が膨らまず、何度も絶望した夫を励まして今の店を支えた。最初のパン屋を開いた千葉県から岡山県へ、そして鳥取県へと移転する際、麻里子さんは「体重がものすごく落ちました。でも、より良いパンやビールを作りたいという夫の夢は壊したくなかったんです」と笑った。
20代後半までジャンクフード漬けで、ほぼ「無職」だったが、学者の父親が渡してくれたマルクスの『資本論』を読んで生き方を変えたという格さんは、パンを通じて地域経済循環・労働循環・技術循環を追求している。自然農法で栽培した穀物、うっそうとした森がくれる木と水で良いパンを作り、誠実な価格で売り、その収益を農家や地域住民に返すという方式だ。十分休息を取らなければ良いパンが焼けないという原則も変わらない。毎週火曜日と水曜日は休業し、従業員には年に1カ月以上の長期休暇を与える。誠実な価格で生産・消費者・従業員・自然の誰からも搾取せずに「生命の様式」をつくるというのが渡邉夫妻の信念だ。
「パンの値段が高いと、金持ちしか食べられないのでは?」と質問すると、格さんは迷わず答えた。「私たちも最初は金持ちばかりパンを買いに来たらどうしようかと心配しました。ところが、うちの店のお得意さんは子育て中の若い夫婦たちなんです。ふさわしい値段の、きちんと作られた本物の食べ物を食べさせたいという信念から、東京からもお客さんがいらっしゃいます。時間と忍耐が必要だと思います。全ての資本が大企業・大都市に流れるのではなく、農民・自営業者・地域の職人たちを生かすことに使われるには、こうした試みを増やすべきだと思います」
別れを惜しんでいると、格さんからうれしい話を聞いた。今月末に韓国に来るという。30日夜7時30分からソウル市内の弘大前「RED BIG SPACE」で、10月1日午後4時から同「想像広場」で読者と対面するイベントが開かれる。