萬物相
【萬物相】就活向け加工写真の弊害
ある企業の採用面接で起こった出来事だ。ムン・アムゲさんは面接官が自分の名前を呼び、質問したのに対し、正直に答えた。ところが、面接官はおかしな目つきでムンさんを見て「私はムン・アムゲさんに尋ねています」と言った。ムンさんが「私がムン・アムゲですが」と言うと、驚いた面接官が別の志願者に「あなたがムン・アムゲさんではないのか」と聞いた。これは志願書に貼り付けられた二人の女性の写真があまりにも似ていたために起こったハプニングだった。二人ともフォトショップ(画像編集ソフト)を使いこなすことで有名なソウル市内の写真館で証明写真を撮ったのがあだになった。
何かに名前を付けるのが好きな若者たちは、この一件を「フォ卵性双生児」と呼んだ。「フォトショップが生んだ一卵性双生児」という意味だ。「魔法」といえるほどの画像の編集ができるフォトショップは、大なり小なりの騒ぎを巻き起こしている。中国では、写真で見ただけの結婚相手の顔を挙式の日に見てショックを受け、川に飛び込んだ男性もいる。インターネットのチャットを通じて好感を持ち、実際に会った若者たちの間では「フォトショップの小細工にだまされるな」という流行語が生まれた。
「偽の顔写真」のために最も混乱を余儀なくされているのは企業だ。志願書の写真と、筆記試験会場や面接会場に現れた志願者の顔があまりにも違うからだ。韓国銀行は苦慮の末、志願者に対し手書きで字を書かせ「本人確認」をすることにしたという。預金保険公社は自己紹介書に書いた内容を出し抜けに尋ね、本人かどうかを確認しているという。輸出入銀行は筆記試験の日に志願者の顔を携帯電話のカメラで撮影し、面接の日に本人かどうかを確認するという。実に涙ぐましい努力だ。
このような事態は、フォトショップを利用する志願者だけのせいにはできない。たった1枚の顔写真が合否に影響を及ぼすからだ。ある就職情報サイトが面接担当者たちに尋ねたところ、10人中9人が「履歴書の写真が採用に影響を与える」と答えたのは、苦々しいことこの上ない。先進国では(原文ママ)履歴書に写真を貼るスペースがない。性別や年齢、国籍、宗教、家族なども問わない。外見や性別、私生活で差別をしないという趣旨によるものだ。顔写真ばかりか身長や体重、血液型まで問う国は韓国しかないだろう。
米国マイクロソフト社のグローバル施策担当社長のグレッグ・シェンク氏は少し前、インドのデリーで行われた国際会議で、有能な社員を採用したという逸話を紹介した。電話でインタビューを行ったところ、専門知識はもとより、生き方についての哲学、将来のビジョンについても完璧に答えたという。採用を決定した後、実際にこの志願者に会った。シェンク氏の前に現れたのは、車いすに乗った障害者だった。その瞬間、自らの偏見について反省した、とシェンク氏は語った。「多様性が生産性や競争力を生み出す源泉だとすれば、私たちはいかなる偏見も持たずに人に接する必要がある」