今月7日、光州市光山区の真谷産業団地にある金型メーカー、高麗精密の工場では、面積3,900平方メートルの生産ラインで自動車部品用の金型が次々と作られていた。製品の70%以上は対米輸出用だ。ナ・ヨンソク代表は「米国からの受注分の納期を守るのが大変だ」と話した。2012年の韓米自由貿易協定(FTA)発効以降、それまで2.9%だった関税が撤廃され、高麗精密の対米輸出は以前の2倍以上に増えた。関税引き下げで価格競争力が高まったおかげだ。15日で発効5周年を迎える韓米FTAはさまざまな面で韓国経済にプラスの効果をもたらしたと評価されている。しかし、国会での批准当時にはさまざまなデマが社会を混乱に陥れた。

■米国産農畜産物の輸出は減少

 代表的なデマは韓米FTA発効で米国産農畜産物が大量に流入し、韓国の農業が荒廃するとの懸念だった。しかし、米国産農畜産物の輸入額は11年の75億5090万ドルから昨年は68億5200万ドルへと年平均1.9%減少した。トウモロコシの輸入量が年平均11.4%減少したのが目立ち、サクランボ、オレンジなどの果物類とワインの輸入は増えた。

 韓国貿易協会のシン・スングァン国際貿易研究院長は「米国産の果物で韓国の果樹農家が困難に直面したとは言いにくい。消費者の選択の幅が広がったというプラスの側面もある」と述べた。韓国の農畜産物の輸出は11年の4億1895万ドルから昨年の7億1595万ドルへと年平均14%増加した。

 大騒動を起こした米国産牛肉の輸入はFTA発効後、年平均9.6%増加した。輸入牛肉に占める米国産の割合は11年の38.9%から昨年には45.3%へと上昇した。しかし、牛海綿状脳症(BSE)のために米国産牛肉の輸入が中断されたことはなかった。米国で牛がBSEに感染し、食の安全に問題があると判断される場合には、いつでも輸入を中断することができる。

■韓米FTAによるISD提訴皆無

 投資家対国家間の紛争解決条項(ISD条項)をデマの標的だった。ISDは韓国に投資した企業が韓国政府を相手取り、国際仲裁機関に提訴できるとする条項だ。投資資本や企業の被害が認定されれば、韓国政府は現金で賠償しなければならない。当時民主労働党は「ISDは米国の投資資本や多国籍企業が利潤拡大のために韓国の法律や制度を無力化させるポイズン条項だ」と主張した。しかし、ISD条項による提訴は過去5年間に1件もない。ISDによる提訴自体は3件あったが、韓米FTAとは無関係だった。12年に米国系のプライベート・エクイティー・ファンドであるローンスターが韓国政府を提訴したISD案件は、韓国とベルギーの投資保障協定に基づくものだ。

■盲腸手術費900万ウォン

 「韓米FTA発効による医療民営化で盲腸(急性虫垂炎)の手術費が900万ウォン(約90万円)まで上昇する」というデマも広がった。しかし、健康保険審査評価院によると、盲腸手術の個人負担額(6人部屋基準)は12年の41万ウォンから昨年の45万ウォンへと4万ウォン上昇しただけだった。

 「韓米FTAで米国企業が上水道の供給権を獲得すれば、水道料金が値上げされ、水道水の代わりに雨水を集めて使うことも出てくる」といったうわさもインターネット上で注目された。「米国とFTAを結んだボリビアで米国系企業のベクテルが上水道事業を民営化し、水道料金を値上げした結果、市民が雨水を使わざるを得なくなった」という話が発端だった。しかし、ボリビアが米国とFTAを結んだ事実はなく、上水道、ガス、電力といった公益事業はそもそも韓米FTAの対象ではなかった。15年現在で韓国の水道料金は平均で1立方メートル当たり683.4ウォンで、韓米FTA発効前に比べ64ウォンの値上がりにとどまっている。

 韓米FTAでサービス市場が開放すれば、韓国のサービス産業が崩壊し、カジノ、成人向け産業、マルチ商法があふれることになるとの見方もあった。しかし、それも事実には程遠い。ただ、サービス貿易では韓国が赤字だ。韓国貿易協会によると、韓国のサービス収支赤字は11年の69億ドルから15年には94億ドルに拡大した。特に知的財産権の使用料が大きく増えた。

 延世大国際学大学院のソン・ヨル教授は「当時反対陣営は米国を中心とする新自由主義に対する拒否感、超大国との二国間交渉には準備不足だという不安感などを挙げたが、今になって振り返れば、交渉で押されることはなかった」とした上で、「賛成陣営もFTAが破綻すれば、韓米同盟が崩壊したり、韓国が滅んだりするかもしれないなどと行き過ぎた主張を行ったのは事実だ」と指摘した。韓国経済研究院の権泰信(クォン・テシン)院長は「国家の重大事項を決定する際、デマが広がり、消耗的な論争が続くことが多いが、それを規制する社会的なルールが必要だ」と主張した。

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