2009年に契約金数億ウォン(数千万円)を受け取り韓国プロ野球チームAに入団したBさんは「超高校級投手」と評価されていた。ところが、Bさんのプロ生活は始めからいばらの道だった。中学・高校時代にチームのエースとして活躍したBさんはプロ入り後、ひじの痛みで思い通りの投球ができなかった。結局、翌年にひじの側副靱帯(じんたい)再建術(別名:トミー・ジョン手術)を受けたが、それだけでは終わらなかった。手術後にも数々の故障に苦しんだBさんは、マウンド上よりもリハビリ室の方で長い時間を過ごさなければならなかった。

 12年にプロ野球チームCに入団した投手Dさんもほぼ同じ状況だった。高校時代に既に140キロメートル台半ばのストレートを投げていたDさんだが、入団後は肩とひじの痛みでリハビリに明け暮れ、兵役に就いた。Dさんは今も完全には復調できずにいる。

 野球の韓国代表チームは今回のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で「高尺の惨事」(高尺=試合が行われた高尺スカイドーム)と言われるほど無気力な試合をしてベスト8進出に失敗した。さまざまな原因が取りざたされているが、野球関係者は「決定的な場面でチームを救う『エース投手』がいなかったのが一番痛かった」と口をそろえる。金寅植(キム・インシク)代表監督も9日の台湾戦終了後、「登板するだけで相手を震え上がらせるような投手が今はいない。柳賢振(リュ・ヒョンジン)や金広鉉(キム・グァンヒョン)の登場から10年たったが、そういう投手が出てこない」と語った。

 韓国野球界には「国宝級投手」の系譜があった。崔東原(チェ・ドンウォン)、宣銅烈(ソン・ドンヨル)、朴賛浩(パク・チャンホ)、柳賢振などだ。しかし、ここ10年間だけを見ると、この系譜が途絶えたと言っても過言ではない。この「大型投手不在」は韓国野球界の構造的な問題のせいだと専門家らは指摘する。

 韓国野球委員会(KBO)は今年1月、39校の高校生投手316人を対象に「アマチュア野球現況アンケート」を実施した。このアンケートの報告書によると、回答者の23%は「13歳からカーブを投げた」と答えた。これはスライダーなどほかの変化球は除いた数値だ。米国スポーツ医学研究所(ASMI)では14-16歳以降にカーブを練習するよう勧告している。関節に負担がかかるカーブを低年齢時からやたらに投げれば、けがのおそれが高くなるからだ。しかし、韓国では多くの投手が小学生のころから「勝つ野球」のため変化球を投げる。ハンファ・イーグルスの金星根(キム・ソングン)監督は「最近の小学生は10球のうち8球も変化球を投げることもある」と言った。

 いわゆる「酷使」も大物投手誕生の障害となっている。中学・高校野球ではエース1人が試合のほとんどを投げるケースが多い。これを防ぐため、2014年から高校野球の投球数制限(130球)の規定が設けられた。だが、ある野球解説者は「試合では規定に従っても、練習時に150-200球ずつ投げるのは止められない」と話す。

 事実、前述のKBO報告書によると、回答者の92%が「腕が疲れている状態で投球した経験がある」と答えている。こうした状況のため、高卒の有望投手がプロ入りと同時に故障を抱えることも少なくない。首都圏を本拠地とするプロ球団のスカウトは「有望投手だと思って入団させても、すぐに手術を受けたり、リハビリに入ったりするケースが必ずと言っていいほどある」と述べた。

 こうした構造の下で大型投手の登場を待ち望むのは奇跡と言っていいだろう。韓国野球関係者の間ではこの投手不足は当分続くものと予想されている。

 いわゆる「フリーエージェント(FA)バブル論」もこうした状況と似ている。ごく少数の大物投手に関心が集中し、年俸ばかり高くなっているということだ。こういった現実は外国チームと対戦する今回のWBCでも如実に現れていた。ある野球関係者は「韓国のFA選手の年俸が上がれば上がるほど、これとは対照的に『コストパフォーマンス』がいい外国人投手への依存度が高まるだろう。韓国人のエース級投手を育成するには、韓国野球界の各部門で根本的な改革が必要だ」と語った。

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