中国の文豪・胡適の作品の一つに「差不多先生」という小説がある。「差不多」(特に違いがない)とは中国人が普通によく使う言葉だが、これを自らの名前とした人物の生涯を描いたのがこの小説だ。差不多先生はその名の通り生涯を「テキトー(適当)」に生きた。幼い時に母親から黄色い砂糖を買ってくるように言われた時は白い砂糖を買い「甘いのは同じ」と言い訳した。大人になってから働いたある店では、帳簿に「十」と「千」を区別せず交ぜて書いた。画数が一つしか違わないので大きな差はないというのがその理由だ。重い病気にかかった時に呼んだ医者は獣医だった。獣医も医者もさほど変わらないと言ってテキトーに治療を受けたが、結局はそれが原因で死んでしまった。

 韓国では最近タワークレーンの崩壊事故が相次いでいる。今年5月に京畿道南楊州市のある工事現場で起こった事故は3人が犠牲となり2人が負傷する大惨事となった。警察の捜査によると、建設会社は作業中のクレーンの調子が悪くなった際、スペイン製の純正品を購入せず、ソウル市内のある鉄工所に同じ形の部品を注文して使っていたことが分かった。破損した元の部品に紙を押し付けてイラストを描き、それを参考に鉄工所で製作したというのだ。タワークレーンの部品はほぼ完璧な精密さが求められる。ところがこの建設会社は純正品も模造品も差はないと軽く考えていたのだから、これでは事故も起こるべくして起こったと言わざるを得ない。

 またこの建設会社の社長は警察での取り調べで「元請けから3日以内に作業を再開するよう求められている」とも証言した。業者は工事の遅延とそれに伴う金銭面での不利益を恐れていたのだ。韓国国内にタワークレーンは5980台あるが、その5台に1台は製造から20年以上過ぎているという。だとすれば部品も当然損傷するため、今後も同じような事故が次々と発生する可能性が指摘されている。2012年から今年5月までにタワークレーン関連の事故は270件発生しており、33人が死亡し252人がけがをしている。

 これと同じパターンは他の業界でも繰り返されている。わずかな金銭をけちると結局は大きな事故を招くことがどうしても理解できないようだ。旅客船「セウォル号」は貨物の運送料を少しでも稼ごうと、事故を起こす前に平衡水を933.6トン抜いて1065トンの貨物を余計に載せ、しかもその貨物を固定もしていなかった。「油断」と「テキトー」もここまで来れば病気だが、韓国社会では改善の傾向など全く見られない。1995年の三豊デパート崩壊事件も構造診断を省略して設計を変更し、その後も拡張工事を何度も繰り返したことが大きな原因になった。

 韓国人は中国でたびたび発生する大型の事故を見てはよくばかにするが、韓国に中国をけなす資格などあるだろうか。例えば歩道のブロック一つを見ても韓国と日本では全然違う。韓国ではあちこちでブロックの傾きやずれがあっても誰も気にしないが、日本ではブロック一つでもずれたり波打ったりするようなケースはない。タワークレーンの事故もセウォル号沈没事件もその根底に強欲と愚かさ、無能、手抜きがあるという点で共通している。同じような事故の危険性をわれわれは日常生活の中で何度も目にしているはずだ。

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