1990年代に韓国外交部(省に相当)の幹部だったある人物が「3S外交官」という言葉を使ったことがある。これは「外国語ができない外交官」の行動パターンをもじった言葉だ。彼らはまず会議などで最初は沈黙(silent)する。次に何かを理解したかのように突然笑みを浮かべ(smile)、そして最後は眠る(sleep)という。3Sとはこの三つのパターンの頭文字だ。

 一方でその正反対のケースもある。中国との外交で数々の逸話を残したある外交官は、ある公式の席上で儀礼的なやりとりを続けていた。中国では複数の関係者が集まる席で有用な情報は得られないことを知っていたのだ。ところがその席が終わった直後、車に乗る直前に中国政府のある関係者と二人だけになった瞬間、この外交官の様子が変わった。流ちょうな中国語と低い声で相手から重要な情報を得ていたのだ。優れた外国語能力があってこそ可能なことだ。

 「外交は祖国のために海外でうそをつく愛国行為」と言われるが、その一方で「正直であることが最も良い外交政策」という言葉もある。この二つに共通する内容があるとすれば、それは「外交では最終的に言葉が武器になる」という点だろう。「駐在する国の信頼を得ながら言葉でこちらの立場を貫徹すること」が外交官に求められる最初の徳目だ。外交現場で45年活躍した潘基文(パン・ギムン)元国連事務総長は「英語も現地語もできないのなら、外交官としての役割は放棄するしかない」と語っている。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は先月、在外公館長を招いた夕食会で「駐在先の国民の心をつかむ外交」を求めた。その席上で文大統領は「韓国の外交は力や資金力には限界があるが、真実の心があれば相手を動かすことができる」と語った。ところがその後、米国、中国、日本、ロシアの大使に続き今回の公館長人事でも「文大統領の選挙陣営出身者」「コード(考え方)」「与党・共に民主党出身者」というお決まりのパターンによって多くの新任大使が指名され、またその中には金大中(キム・デジュン)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権当時の10年以上前によく聞いた名前も多かった。彼らの多くは当然外交官としての能力など検証もされていないし、「大使になるための就職試験」と呼ばれる語学の試験も受けていない。これでどうやって駐在先の国民を感動させることができるだろうか。

 米国の時事週刊誌「タイム」は外交を「芸術のもう一つの形態」と定義した。外交官たちが国益のために言葉とジェスチャーを絶妙にミックスさせ、それにボディーランゲージと修辞を交える様子はまさに芸術の域に達しているという意味だ。このように外交を芸術の次元にまで高めるには、国際的な経験や識見はもちろん、現地の人たちとスムーズにコミュニケーションができる言葉の力が当然それに伴わねばならない。ところが今回、その中のどれ一つとしてできない新任の公館長たちが任命された。近くかつての「3S外交官」が再びニュースになりそうな気がしてきた。

ホーム TOP