文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足して10カ月が過ぎたが、韓国社会の話題は依然として「積弊清算」に集中している。長年の弊害や問題を意味する「積弊」を正すことに異議を唱える人はいない。しかし、積弊清算が現在のように一過性の司法処理主体で進めば、社会全体にもたらすメリットよりデメリットの方がはるかに大きいはずだ。

 まずは公務員が地に身を伏して動かない消極的態度に陥るのは火を見るより明らかだ。そうしたさまを表す「伏地不動」という言葉が官僚社会に使われるようになったのは金泳三(キム・ヨンサム)政権時代、公務員に対し、司法が強硬に介入してからだ。当時は個人の不正撲滅が重点だったにもかかわらず、公職社会全体が静まり返った。そして、現在は不正がなくても司法処理の対象になるのだから困惑してしまう。

 政策に理解が足りない民間人が公務員の過去の業務について調べ、上司の指示で動いた先輩職員がひどい目に遭っている。それを見た公務員が責任を持って働くことを期待できようか。四大河川事業、海外資源開発など国策事業に関与したという理由で不利益を与えれば、公務員をさらに委縮させるだけだ。

 経営危機に直面する造船・自動車だけでなく、近く金利が上昇することで経営難に直面する企業の処理問題を含め、思い切った構造調整が求められる局面だ。それなのに、公務員が委縮していれば、成果など上げられない。生ぬるい対応の末、後で一気に構造調整に踏み切れば、経済危機を招きかねない。

 積弊清算は国家イメージにもマイナスだ。積弊清算の過程で韓国の恥部が露見し、海外で「韓国は品格を欠く国」だと評判を落としている。国家情報院のメーンサーバーが検証を経ていない民間人に公開され、歴代の国家情報院長が次々と拘束されていることを見てもそうだ。情報は信頼が命だが、今後果たして外国の情報機関が韓国と胸を開いて協力するだろうか。前政権による日本との慰安婦合意に問題を提起したことは、韓国にだけマイナスだった。国内政治ばかりを考えたからだ。

 平昌冬季五輪を迎え、外国首脳や国際スポーツ界、政府高官が大挙して訪れる時期に前大統領と財界関係者が徹底した司法処理を受けていることも印象がよくない。彼らはいずれも五輪招致の功労者であり、良かれ悪しかれ国際社会で一時は大韓民国の顔だったからだ。

 韓国最大の企業、サムスン電子は、五輪開幕式の日に家宅捜索を受けて以降、相次いで捜索を受けている。五輪を企業経営に積極的に活用しようとしていたロッテグループ会長は、外国の賓客が訪れているこの時期に拘束された。罪を犯したならば、罰を受けるのが当然だが、五輪期間にこうすべきだったかどうかは残念な思いがする。

 最も懸念されるのは社会の分裂だ。積弊清算という名分の下、社会の指導層がこれほど処罰されるのは、1987年の民主化以来ではないか。財界のエリートから公職者、軍人に至るまで大半が国家のために働いてきた人々だ。相次ぐ召喚と家宅捜索、逮捕状執行で社会全体が混乱している。

 検察は韓国で最高の秀才が集まった集団だ。頭が良い上に万能の剣を持っている。彼らがその気になれば、誰もそこから泳ぎ出すことは難しい。その矛先は大胆になり、3人の歴代大統領を狙っている。3回続けば、通常は「慣行」になったことを意味する。

 検察が今回も成功すれば、大韓民国には歴代大統領で礼遇を受ける人物が全くいなくなる。韓国にはそれほどの度量しかないのか。文化大革命を起こし、数十万人を殺し、中国を20年以上後退させた毛沢東について、トウ小平が「全ての人に功罪がある。過ちだけで評価してはならない」と述べたのとあまりに対照的だ。

 今苦しめられている社会の指導層の一人ひとりが韓国社会の大切な資産だ。経験豊富な人材を活用するどころか、こうして追放すれば、国家には大きな損失だ。現在世界は大変革期にある。経済や安全保障環境の変化はいずれもメガトン級だ。多くの社会指導層が背を向け、国民が分裂していては、難局を乗り切ることはできない。

 積弊清算はそれ自体が目的ではない。国家がアップグレードできなければ価値がない。過ちを正そうとして、かえって物事の方向を誤ってはならない。今は過去を追及するよりも、未来のための制度改革を目指すべきだ。

金大棋(キム・デギ)元青瓦台政策室長

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