韓国における昨年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むと予想される子どもの数)はまだ発表されていないが、大統領直属の低出産・高齢社会委員会の関係者は「昨年10月までの人口統計に基づいて11月と12月分を計算したところ、おそらく0.96人になりそうだ」と伝えた。公式の統計は来月発表される予定だ。

 合計特殊出生率が0.96人とは、1組の夫婦が生涯で生む子どもの数が1人に満たないことを意味する。1組の夫婦が最低でも2人は生まないと社会を維持することはできない。合計特殊出生率が1未満というのは世界的に見ても非常に珍しい。経済協力開発機構(OECD)でも加盟35カ国平均の1.68人を大きく下回る圧倒的最下位だ。今の状態が今後も続けば非常事態を宣布すべきだろう。

 人口問題に詳しいある専門家は「本当に深刻な状況だが、それでも韓国社会ではあまりにも関心が低い」「合計特殊出生率も多少の低下ならそれなりに対策を取れるだろうが、低すぎるのでそれも難しいだろうし、対策を取るにしても巨額の費用が必要になるだろう」と述べた。その上でこの専門家は「韓国政府も国民も今の問題にしか関心がなく、未来については忘れてしまっているようだ」と嘆いた。

 0.96人という数字にさえさほど危機感がないのは「出産に関する統計にこだわらない」とする今の政府の考え方とも無関係ではないだろう。今の政府は「合計特殊出生率を2020年までに1.5人に引き上げる」とするこれまでの目標は実現不可能とすでに判断しており、より長い観点から生活の質を高め、自然に引き上げたいとしている。もちろんこの考え方にも一理あるが、一方で出産を奨励する政策を完全に放棄していないか心配なのも事実だ。

 韓国よりも20年早く少子化問題に直面した日本では、2016年の合計特殊出生率は1.44人、17年は1.43人だった。17年の数値が前年よりも0.01人下がったことを日本のメディア各社は「非常事態」と表現した。現状だと日本は昨年も1.4人ほどを記録する見通しだ。韓国に比べるとずっとましだが、それでも日本政府による少子化対策は韓国政府とはあまりにも対照的だ。また15年には「50年後も人口1億人維持」を目指す「1億総活躍社会」という目標を掲げた。さらに少子化対策に取り組む省庁を統合し「1億総活躍担当長官」を新たに設け、希望出生率1.8人の実現を目指している。韓国と日本では政策の細かい内容にさほど大きな違いはないが、政府として明確な意志と目標を掲げている点で日本は韓国と大きく異なる。

 人口問題に詳しい国立社会保障・人口問題研究所の鈴木透氏は先日のインタビューで「日本政府による人口政策にさほど大きな成果はまだ出ていないが、少子化問題克服に向け努力していることを示すのは重要だ。それすらなければ出生率はもっと一気に低下してしまうだろう」と述べた。この言葉から、韓国における出生率の急落は政府の対応も一つの原因ではないかと心配になってくる。

 今月11-15日、韓国では極度に高濃度のPM(粒子状物質)2.5が発生し、国民は大きな苦痛を感じた。現在、PM2.5発生時の緊急対策として公務員による自動車運転の2部制、道路の清掃、老朽化したディーゼル車の運行制限、石炭火力発電所の出力制限などが行われているが、これだけでは不十分と国民の誰もが感じている。だとすれば政府は新たな対策を提示するか、あるいは最低でも対策に取り組んでいる姿勢を示さねばならない。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は22日「政府は手をこまねいていると言われている」として政府関係者を叱責(しっせき)した。文大統領は「今国民が願っているのは最善を尽くす政府だ。実行可能な特段の対策に取り組み、創造力と想像力を発揮しなければならない」と訴えた。

 少子化も大気汚染もどちらも非常に困難で深刻な問題であるため、国と政府を挙げて全力で対策に取り組まねばならないが、それでも解決の見通しが立つかどうか分からない。しかし政府の存在理由はこのような困難な問題に取り組むことではないだろうか。政府が頭を痛めて解決策を模索しているとの印象さえ国民に与えられれば、今のように不安ばかりが膨らむことはないだろう。政府は積弊清算や北朝鮮問題に今も大きな関心を示し力を入れているが、その関心の半分、いや半分の半分でも少子化対策や大気汚染対策に振り向ければ、目に見える成果や見通しはずっと以前から出ていたのではないか。

キム・ミンチョル記者

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