北朝鮮では、「賄賂を納める」という意味で「コイダ」という単語が流行している。韓国では「クェダ」という形でよく使われている単語だが、「倒れないように下を支える」という本来の意味が、さらに進んで「不足分を補充する」という意味を持つようになり、北朝鮮では「賄賂」になったらしい。あちらの流行語に「『コイム』の法則」というものもある。「賄賂さえ収めれば全てを動かせる」という、北朝鮮の実情を反映した言葉だ。これを取り上げて、慣性・運動・作用反作用に続く「ニュートンの第4運動法則」だと皮肉っているともいう。

 北朝鮮社会の中間幹部の月給は、北朝鮮の通貨にして4000ウォン程度。市場の為替レートでは米貨50セント(現在のレートで約54円。以下同じ)にしかならない。コメを1キロなんとか買えるくらいの金額だ。北朝鮮で中産層が生きていこうと思ったら、月に100ドル(約1万893円)は必要だ。残りの99.5ドル(約1万839円)は賄賂を取るか、家族の誰かが商売をするかして、ようやく埋めることができる。「賄賂社会」になるのは必然だ。昇進するにも、大学に入るための推薦状をもらうにも、果ては公文書1枚取得するにも、全て裏ガネを握らせないといけない。ソ連崩壊直前、賄賂が国内総生産(GDP)に占める割合は2-3%だったが、今の北朝鮮は7%に達するという分析もある。

 北朝鮮で賄賂が出てくる二つの穴は、市場と貿易だ。北の住民が職場に出勤するのは、月給のためではなく、まだ時折出てくる特別配給にありついたり、上層部から目を付けられないようにするという理由の方が大きい。彼らは、およそ500カ所に増えた公式の市場を中心として生存の問題を解決している。「北は二大政党制国家。『ノドンダン(労働党)』と『チャンマダン(市場)』がある」というジョークが出てくるほど。北の市場では、商いをしている人物の9割が女性だ。故に「性上納」も賄賂になる。

 国際透明性機構が1月29日に発表した2018年の「国別腐敗認識指数」ランキングで、北朝鮮は調査対象180カ国中176位だった。北朝鮮よりも下の国は南スーダン、シリア、ソマリアだ。どこも内戦中だったり、中央政府が存在しなかったりする場所だ。事実上、北朝鮮は最も腐った国だと言っている。

 北朝鮮社会における賄賂の終着点は、当然ながら労働党だ。金正恩(キム・ジョンウン)委員長の統治資金にして核・ミサイル開発の資金となる。そのため国際社会の北朝鮮制裁も、労働党の特権層に流れ込む賄賂の流れを断つことに焦点を合わせる方向で発展した。北朝鮮労働者の海外送り出しを防ぐのも、賃金の80-90%がそっくり労働党に入るからだ。金正恩委員長が第2次米朝首脳会談を推進する中で「制裁緩和」をしつこく要求するのは、制裁が効果を上げていることを意味する。昨年の北朝鮮の輸出は、前年より87%も減った。今の水準の北朝鮮制裁があと数年続きさえすれば、金正恩は本当に核放棄の岐路に立つことになるだろう。

アン・ヨンヒョン論説委員

ホーム TOP