韓国政府の支援を受けているテレビ局が4月10日、韓米首脳会談を報道する際、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の写真の下に北朝鮮の「人民共和国旗」(人共旗)を付した映像を放送した。「放送事故」だった。テレビ局側は「文大統領が米朝対話を仲裁する考えを持って訪米の途に就いたことを強調しようとした」と釈明した。だから画面上方には韓米首脳の顔、下方には米朝の旗を表示したのだ、という意味のようだった。これが怒りを買った。「単なるミス」ではなく「意図的」ということになったからだ。

 関連記事には、文大統領と人共旗をセットにしてあざけるコメントが山ほど付いた。「真実の報道」だといった当てつけが多かった。すると今度は、文大統領支持者がカッとなった。韓国大統領府(青瓦台)の請願掲示板には「このテレビ局に支給される年間300億ウォン(約29億5000万円)の財政補助金をなくしてしまえ」という書き込みがアップされ、15万人が「賛成」ボタンを押した。同テレビ局は最近、麻薬事件の被疑者のグラフィックを故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領に似せて作ったという非難も受けていた。

 韓国のテレビで「国旗ミス」が起きるのは珍しくない。2014年のアジア大会では、韓国の水泳選手の名前横に日本の日章旗が付き、12年のロンドン・オリンピックでは太極旗があるべき位置に中国の五星紅旗があった。大韓民国を「大韓日本」と書いた字幕もあった。テレビ局が謝罪することで事は済んだ。政府の支援を終わらせろという請願もなかった。

 16年、中国国営の新華社通信が習近平国家主席を「最高指導者」ではなく「最後指導者」と誤って記し、記者とデスクが重懲戒を受けた。北朝鮮に至っては話にもならない。金日成(キム・イルソン)主席の追悼記事を読んでいて「金正日(キム・ジョンイル)逝去」と言ったアナウンサーは、跡形もなく姿を消した。金日成「元帥」(ウォンス)を「怨讐」(ウォンッス)と書いてしまった記者もいたが、命脈を保つことはできなかっただろう。

 メディアにとって、誤報と放送事故は避けられない宿命のようなものだ。確認を重ねても、「盗まれるときはイヌも吠えない」といえそうな、万事うまくいかない状況も起こる。果ては文大統領自身、訪米時に芳名録へ「大韓民国(テハンミングク)」ではなく「大韓米国(テハンミグク)」と書いてしまった。人はミスをしてしまうものだ。韓国政府の支援を受けているメディアが、文大統領を批判しようという意図を持つはずがない。文大統領にとって肯定的な報道をしようとして生じた、制作上のミスだろう。社内レベルで警告したりけん責したりする程度で済ますべき事案だった。ところがテレビ局側は、わずか一日で報道局長とニュース総括部長を解任した。それも足りないのか、4月12日には報道の最高責任者に当たる報道本部長まで解任した。あるテレビ記者は「政権にとって目障りな事故が起きるたび、報道局を一掃するつもりか」と語った。今は全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領の第5共和国時代ではない。過ぎたるは及ばざるがごとしだ。

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