▲社会政策部=洪準基(ホン・ジュンギ)記者

 韓国の国民年金公団の職員が年金を受給する高齢者たちを、事故死を装って殺害する。高齢者たちを殺害したのは、国民年金公団年金理事傘下の基金合理化支援室老齢年金タスクフォース所属職員だ。「94歳の高齢女性が122歳の父親を介護する」「地下鉄10両中8両が高齢者専用」「若者たちが80歳以上の高齢者の投票権はく奪を要求する」世界で起こったことだ。これは、昨年出版されたパク・ヒョンソの小説『あなたの老後』で描かれた将来の韓国の姿だ。「最近は若者3人で高齢者7人を扶養している。若者たちが100万ウォン(約10万円)ずつ稼ぐと、お前ら高齢者たちに吸い取られて、だいたい50万ウォン(約5万円)ずつ持って行かれるんだよ」。小説の中の年金理事は、公団が年金を受給している高齢者を殺さざるを得ない理由をこう説明した。

 こうした小説が出版された中、国民年金公団は先日、公式フェイスブックに年金に対する否定的な見通しに反論するかのような資料を掲載した。同公団は「1995年には国民年金が2033年に、2000年には2049年に枯渇するとの見通しがあった」と紹介した。昨年の第4次財政計算では、現行制度を維持した場合、国民年金基金が枯渇する時期は2057年になるとの予測が出た。同公団は「(基金枯渇に対する懸念から)保険料納付を避けるようになり、現在国民年金を受け取れなかったり、年金額が少なくなったりして後悔する人もいる」と書いた。 「どうせ将来の状況は変わっていくし、基金枯渇の時期も遅くなる傾向がある」という楽観論を伝えたかったようだ。

 公団が紹介したように、計算し直すたびに年金基金の枯渇時期予測は変わる。今まではおおむね経済活動をする人口が増えていたが、その後、受け取る年金額を減らす方向へ政府が年金制度を変更してきたため、資金の枯渇時期は過去の予測に比べ遅くなった。だが、今は一日も早く保険料率を引き上げること以外に、資金の枯渇時期を遅らせる方法が事実上、ない。予想を上回る少子化が進み、生産可能人口(15-65歳)は既に2017年から減少に転じている。今後は年金保険料を払う人が減っていくということだ。高齢化が急速に進んでいる一方で、年金受給者ばかりが増えている。

 政府がある限り、資金が枯渇したからと言って、年金支給が停止されるわけではないことは誰でも分かっている。だが、基金が枯渇すれば、年金を支給するために将来働く人々が自身の所得の20-40%を保険料として支払わなければならなくなる。小説のように、高齢者福祉のために払う税金や社会保険料が所得の約半分になる時代も近づいているのかもしれない。

 政府と国民年金公団は、何の対策もなしに「将来、年金を問題なく受け取ることができる」と大言壮語ばかりしていてはならない。そんなことをしていたら、小説『あなたの老後』に出てくる、おぞましい「老人嫌悪」が韓国で現実のものになる恐れもある。

社会政策部=洪準基(ホン・ジュンギ)記者

ホーム TOP