▲人工知能(AI)を政治に適用し、特定の法案の通過確率、上下院議員の性向を基に賛成・反対まで予測するサービスを開発した、フィスカルノートの創業者でCEOのティム・ファン(27、右)。左は法案関連の各種データを分析して表示するフィスカルノートのサービス画面。/ブルームバーグ、フィスカルノート

人工知能で法案通過予測、米「フィスカルノート」創業者のティム・ファン

2800億ウォンの投資を誘致…米政府・議員・裁判所のビッグデータ

AIによってリアルタイムで分析し情報提供、ウーバーやマクドナルドなど5000社超の顧客

エコノミストグループの政治メディアを買収…20代でメディアのオーナーの座に

 人工知能(AI)によって米国の政治の場を揺り動かそうという韓国系の若い創業者が、米国のスタートアップ業界で注目を集めている。シリコンバレーでは「第二のマーク・ザッカーバーグ(フェイスブック創業者)」という声まで出ている。主人公は、データ分析サービス企業、フィスカルノート(FiscalNote)創業者で最高経営責任者(CEO)のティム・ファン(韓国名:ファン・テイル)=27=だ。この20代の青年は2013年に創業して以降、米ヤフーの創業者のジェリー・ヤン、米国の億万長者でNBA(プロバスケットボール)ダラス・マーベリックスのオーナーであるマーク・キューバンら、投資を確実に成功させるといわれるベンチャー投資家から総額2億3000万ドル(約244億円)の投資を引き出した。

 2014年に米CNN放送は、フィスカルノートを「世界を変える10大スタートアップ」に選出した。また16年に米誌フォーブズはファン代表を「30歳以下の有望株30人」、世界経済フォーラム(ダボス・フォーラム)は「テクノロジーパイオニア」に選定した。

 8月23日(現地時間)に米カリフォルニア州サンノゼで開催された韓国系によるスタートアップの会「82スタートアップ」の舞台に立ったファン代表は「もともと政治家になりたかったが、技術の方が政治より速く動く上、あらゆることを変えるのを目の当たりにして、創業を決心した」と話した。「私は、政治を通じてヘルスケア関連法案を変更しようと取り組んでいるときに、親しい友人がモバイル用アプリを開発してわずか1年で数万人の医師と患者を直接結びつけるのを見て『いったいこれは何なんだ』と思った」というわけだ。

■AIで政治を予測

 フィスカルノートは、米連邦と50の州の政府・議会・裁判所が公開したビッグデータをリアルタイムで参照し、人工知能によって分析した情報を提供する。これによって現在、議会に上程された法案の細かな内容や後援者、上下院議員の過去の投票状況を分析し、各議員の賛成・反対予測や、実際に法案が通過する可能性がどのくらいあるのかも分析する。ファン代表は「法案の通過予測度は90%以上」と話した。

 例えば、車両共有サービス、ウーバー(Uber)の官公庁向け担当者は現在、米連邦と50の州の議会で車両共有に関するどのような法案が発議され、どのように進行しているのかをリアルタイムで把握することができる。州ごとの独自の法令や特定の州の裁判所で出された過去の判決文まで反映する。該当の法案は誰がどのような意図で作成したのか、果たして通過するのかを、あらかじめ予測して、関連企業や市民団体、地域住民らが事前に対処できるよう支援するわけだ。ファン代表は「ウーバー、マクドナルドなど5000余りの顧客がフィスカルノートを購読している」として「現在、米国だけでなく世界60か国・地域の公共データを分析し、提供している」と話した。

 フィスカルノートは昨年8月、英国の有力メディア、エコノミストグループと1億8000万ドル(約190億円)の契約を締結した。エコノミストが保有する政治専門メディア「CQロールコール」を買収したのだ。CQロールコールは米国のホワイトハウスや議会のニュースを扱っている。一方のエコノミストは現金とフィスカルノートの持ち株18%を取得することを決めた。エコノミストグループのクリス・スティーブスCEOもフィスカルノートの取締役会メンバーに名を連ね、ファン代表は20大メディアのオーナー(社主)となったのだ。(エコノミストグループは)技術のベンチャー企業に有力メディアを譲り渡し、運命を共にすることにしたわけだ。ファン代表は「情報を再販売する仕事である以上、顧客に対しデータ分析とリアルタイムコンテンツを充実した状態で提供するため(の買収だった)」と話した。

■「政治より技術の方が世界をスピーディーに変える」

 ティム・ファンは、1986年に移民として米国に渡った韓国人夫妻のもとに生まれた韓国系2世だ。1992年に米ミシガン州で生まれた。高校生だった16歳のときに、米大統領選の民主党候補となったバラク・オバマ前米大統領の選挙陣営で働いた。翌年にはメリーランド州モンゴメリ郡の学生教育委員に投票で選出されるなど、学生時代には「政治の有望株」だった。プリンストン大に進学し、政治学とコンピューター工学を専攻した。21歳のときに大学の仲間2人と共に創業。ティム・ファンは「政治と技術の交差点で創業を決心した」として「創業するためにシリコンバレーに渡ったばかりの頃は、とにかくお金がなくてモーテルに泊まりながら仕事した」と話した。

 ファン代表の目標は大きい。ファン代表は「現在の60か国・地域を超え、全世界200以上の国・地域の全ての法と規定を網羅したデジタルプラットフォームを構築することが目標」だとして「人類初の成文法である『ハムラビ法典』の次のバージョンを作りたい」と話した。

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