10年前に韓国海軍の哨戒艦「天安」が爆沈した直後、北朝鮮の魚雷攻撃を否定する最初のデマは「座礁説」だった。これを提起した民間潜水業者に判断の根拠を尋ねたら「ぱっと見たところ座礁」と答えた。「天安を実際に見たことがあるのか」という質問には「引き揚げのテレビ中継のとき初めて見た」と答えた。この人物は、セウォル号沈没事故のときも「ダイビングベル」の主張で現場に大きな混乱を起こした。5年後、民主党の大物議員がテレビで「天安艦の横にできたスクラッチ(引っかき傷)を見たか。座礁だ」と発言した。スクラッチは引き揚げの過程でできたものだ。議員は「北の仕業だとは信じたくない」とも発言した。この言葉こそ本心だろう。

 「艦内爆発説」もあった。天安の切断面が外から中に向けてひどくたわんでいることが明らかになると、この説は消えた。「米軍原子力潜水艦との衝突」デマが通用しないとなるや、今度は「イスラエル小型潜水艦衝突説」が飛び出した。北朝鮮の小型潜水艇の仕業だと発表されると「そんな能力はない」という主張が繰り広げられた。一つのデマが根拠を失うと別のデマが代わりになる。デマ同士、互いに矛盾したりもする。

 インターネットメディアの代表が「東海に生息する赤いホヤが、西海で引き揚げられた(北の)魚雷の推進体から発見された」と主張した。韓国軍が爆沈の証拠として海から引き揚げた北朝鮮の魚雷の推進体は捏造(ねつぞう)、というのだ。ところが、「赤いホヤ」を遺伝子分析した結果、生命体ではないと判明した。その人物は「北の魚雷に(ハングルで)書かれた『1番』という文字は韓国人が書いたもののようだ」とまで言った。民主党は、こんな人物を天安の民間調査委員に推薦した。

 現在政権の座にある当時の野党は、政府発表を信じようとしなかった。世界的な金属工学者が発表した科学的事実に対し、柳時敏(ユ・シミン)氏は「小説」だと言った。一時は、天安爆沈を信じないことこそが、何か優れた人物であるかのような風潮まであった。「地方選挙用の『北風』工作」というデマもかなり出回った。兵士たちが家に電話をかけて「北朝鮮とわざわざ戦争しようとしているが、防がないといけないんじゃないか」と言う事件まで起きた。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領が天安爆沈を認めた後、デマは消えた。事実を認めるとか認めないとか言うこともない。北朝鮮の攻撃ではなかったのであれば、この10年の間に何十回も良心宣言が出たはずだ。だが、実際にはただの一度もなかった。それでも、デマを主張していた人々は依然として大きな顔をして歩き回っている。狂牛病デマ、THAAD(高高度防衛ミサイル)電磁波デマを言いふらしていた人々も同様だ。狂牛病デマを主張していたある人物は、米国でハンバーガーを食べたりもしていた。天安デマは、痛ましい天安遺族の胸を引き裂いた。デマを流布した人々は、いまだに「申し訳ない」の一言もない。それでいて、口さえ開けば「正義」を叫ぶ。

アン・ヨンヒョン論説委員

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