オーストラリア国防省は先月3日、K9自走砲を製造する韓国のハンファ・ディフェンスを陸軍現代化プロジェクトの一つである「ランド8116」自走砲獲得事業の優先供給者に選定したことを発表した。1兆ウォン(約900億円)規模となるこの事業が順調に進んだ場合、K9自走砲30門とK10弾薬運搬装甲車15台、その他の装備などをオーストラリアに輸出できることになる。

 これに先立ちハンファ・ディフェンスは今年7月末、未来型装甲車「ランドバック」のオーストラリア出征式を開催した。ランドバックはオーストラリアにおける装甲車事業の最終2候補に残ったことから、試作品2台がオーストラリアに向かう際に出征式を執り行ったのだ。オーストラリア陸軍による軌道型装甲車事業は5兆ウォン(約4500億円)規模に達する。

 韓国製の兵器がオーストラリア市場に進出できた背景には、オーストラリアが莫大(ばくだい)な予算を投入し戦力の大規模増強に乗り出しているという事情がある。オーストラリア政府は今年7月初めに「2020年国防戦力アップデート(Defense Strategic Update)」と「2020年国防構造改革プラン(Force Structure Plan)を発表した。この計画によると、オーストラリアは2030年までの10年間に2700億オーストラリア・ドル(約20兆円)の国防費を投入する計画だ。10年にわたり毎年22兆ウォン(約2兆円)の国防費が投入されることになる。

 オーストラリアは韓国と異なり、周辺に北朝鮮のような現存する脅威のない国だ。そのため正規軍の総兵力もおよそ6万人程度と少ない。陸軍2万9000人、海軍1万5000人、空軍1万4000人ほどだ。予備軍も2万7400人しかいない。韓国軍の総兵力(56万人)のわずか10分の1にすぎないことになる。今年度の国防費は32兆ウォン(約2兆9000億円)で、韓国の国防費(50兆ウォン=約4兆5000億円)のおよそ60%だ。

 オーストラリア軍の戦力増強計画を詳しく見ると、北朝鮮と対峙(たいじ)している韓国でさえ驚くほどだ。陸海空軍だけでなく、宇宙やサイバー分野にまで防衛用はもちろん、長距離攻撃用兵器も網羅されている。今後10年間に45兆5000億ウォン(約4兆1000億円)が投入される陸軍の戦力増強計画には、韓国のK9自走砲と装甲車「ランドバック」を含む新型歩兵戦闘装甲車事業と自走砲事業、米国の主力戦車M1エイブラムスの改良計画などが含まれている。

 海軍には62兆1000億ウォン(約5兆6000億円)が投入される。12隻の新型攻撃用潜水艦をはじめとして、キャンベラ級強襲上陸艦(軽空母)2隻、ホバート級イージス艦などが導入されたかあるいは導入される予定だ。空軍も53兆8000億ウォン(約4兆9000億円)を投入し、F35Aステルス戦闘機72機、無人偵察機スカイ・ガーディアン、電子戦機などが導入される。オーストラリアが導入を進めているF35の数は、韓国空軍が来年までに導入する40機よりも32機も多い。

 直接の軍事的脅威がないオーストラリアがなぜこれほどの巨額を投入して戦力増強に力を入れているのだろうか。オーストラリア版国防白書「2020年国防戦力アップデート」にその答えが記されている。同書には中国を事実上の潜在敵国と見なす表現がある。オーストラリアのモリソン首相は「オーストラリアは第2次世界大戦以降、見ることもできなかった地域における挑戦に直面している」と述べ、中国の浮上に対応するため積極的な防衛戦略を採択する考えを表明した。中国が南シナ海に人工島を造成したことなどがオーストラリアを刺激したというのだ。

 しかし中国に対するオーストラリアの正面からの対応は構造的に難しい側面がある。中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手国であり、オーストラリアの輸入工業製品の25%が中国製となっているからだ。中国は自国と距離のある米国と親密な協力を進めるオーストラリアを懐柔するため、執拗(しつよう)に有形・無形の圧力を加えてきたが、オーストラリアはこれに屈しなかった。

 しかしオーストラリアだけで中国の脅威に立ち向かっているわけではない。オーストラリアは米国はもちろん、日本やインドなどとの協力も強化している。これら4カ国は米国が中国に対抗して構築した戦略多国間安保協議体「クアッド」に加わっている。クアッドは随時、合同海上訓練など中国を念頭に軍事演習を行っている。オーストラリアはいわゆる「ファイブ・アイズ」の一員でもある。ファイブ・アイズとは米国、英国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダの5カ国による機密情報共有の枠組みを意味する。映画にも登場するオーストラリア内陸で米国と共同運用する軍事施設「ファイン・ギャップ」は、南シナ海と東シナ海における中国軍の動向などを監視している。

 このようなオーストラリアの戦略は、米中両大国の覇権争いに挟まれた韓国にも多くの点を示唆している。過去に自らの姿を現すことなく時を待ち、実力を高めてきた「韜光養晦(とうこうようかい)」と呼ばれる外交・安全保障戦略の方針を進めてきた中国は、今や露骨に「戦狼外交」を展開している。戦狼外交とは中国の人気映画「戦狼(せんろう)」に例えた言葉で、オオカミのように力を誇示する中国の外交戦略を意味する言葉だ。

 米国は米国なりに同盟国を引き入れ、中国に対する連合戦線の構築に力を入れている。米国はクアッドに韓国などアジアの主要国を参加させる「クアッド・プラス」構想も推進している。

 これによって米国の対中連合戦線への参加圧力も強まっている。マーシャル・ビリングスリー米国軍備管理担当大統領特使は先月28日、韓国メディアとの記者会見で「韓国も中国が『核で武装したやくざ』として浮上している現状を放置できない点をよく理解している」と述べた。中国に対して公開の席で「核やくざ」と呼んだのだ。

 来月には米国務省のポンペオ長官に続き、中国の王毅・国務委員兼外相が来韓する見通しだ。米中はどちらも過去において韓国のいわゆる「模糊(もこ)性戦略」をあえて見過ごすこともあった。しかし今や米中はどちらも韓国に対し「だからあなたはどちらの側に立つのか」と問い詰めてきている。二つの強大国から二者択一を強く迫られる時が近づいているのだ。オーストラリアの生存戦略と姿勢が一層身に染みる時だ。

ユ・ヨンウォン軍事専門記者

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