▲f(x)のビクトリア(写真左)とEXOのレイ。韓国で芸能活動をしている中国人アイドルは最近、ソーシャルメディアに「抗美援朝70周年記念」などの書き込みをアップし、物議を醸している。

 もう17年も前のことだ。韓国文学評論協会の主催により慶煕大学で開かれた国際シンポジウム「世界文学の視角から見た韓国戦争とその文学的決算」にパネリストとして登場したA教授が、怒りを抑えた声で語った。

 「『抗美援朝戦争』という用語をそのまま使用するのは、中国政府の視角を無批判に受け入れることではありませんか?」。直前に発表を行った延辺大学のB教授は、中国の「抗美援朝文学」が「米帝国主義者と戦って勝利を挙げた人民の業績」を示してくれると語っていた。B教授は「抗美援朝戦争を深く掘り下げることによって英雄たちの業績を歌い上げ、民族精神を高めなければならない」と声を強めた。

 この主張に対し「過度の飛躍であって、戦争の一方の側を全く考慮しない偏向性を有している」と批判したA教授は、討論の時間が終わるや、心配そうな表情で記者に語った。「ソウル都心の学術会議の場で、あんな話をするなんて! こんなふうにいくと、いずれもっと大きな事件が起きるでしょう…」

 中国人が日常用語のように何気なく使っている「抗美援朝」とは、韓国人としては腹の中が煮えくり返る言葉だ。中国人が「侵略者米国に対抗して(北)朝鮮を助けてやった戦争」と呼んでいるその戦争は、ほかならぬ6・25だ。

 政権樹立から1年にもならない新生国家、中華人民共和国は、ソ連のスターリンのたくらみに巻き込まれて自国の人民を他国の戦場へ動員し、数十万人を犠牲にしたこの戦争を、「米帝国主義に立ち向かった正義の戦争」と宣伝・扇動した。政治的に人民を団結させようという、明白な目的があった。

 この戦争における中国側の代表的な勝利として美化されているのが、いわゆる「上甘嶺の戦い」だ。「十数億中国人民の愛国心の源泉が上甘嶺」という言葉もあり、昨年、米国の制裁で窮地に追い込まれた華為技術(ファーウェイ)の会長が「上甘嶺の戦いのように米国に立ち向かいたい」と吐き捨てたこともあった。

 実際のところ、これは韓国側の軍史で「狙撃稜線(りょうせん)の戦い」(1952年10月14日-11月25日)と「三角高地の戦い」(10月14日-11月5日)と呼ばれる二つの戦いをひとまとめにして称する用語だ。韓国軍の公式の立場は、二つの戦いはいずれも「国軍が勝った」というものだ。韓国軍は熾烈(しれつ)な戦闘の末、南側の稜線のA高地と岩の稜線を守り抜き、軍事境界線の設定において有利な地形を得ることができた。北側の稜線にあるY高地は中国軍が占領したままで戦いが終わったが、損失兵力は国軍4830人、中国軍1万4867人で、中国軍の損失は国軍の3倍以上だった。国軍の戦果をいかに低く見ても、敗戦と見なすことは決してできない。そういえば、ベトナムに武力侵攻して敗退した1979年の中越戦争についても、中国側は「敵の要地に打撃を与えて勝利した後、速やかに退却した」と言いつくろっている。

 上甘嶺の戦いは既に当時から、中国において「大勝利」と過剰包装されていた。大陸の各所から送られた数多くの手紙や慰問品が、中国軍の坑道要塞(ようさい)に殺到した。「困難を克服し、祖国と人民の勝利に奉献する意思」という「上甘嶺精神」が猛威を振るった。それから70年が過ぎた現在も、依然として抗美援朝・上甘嶺を唱えているのだ。

 ここでまた一つ注目すべき点は、計43日におよんだ戦闘中、米軍は最初の11日間だけ一部参加したにとどまり、残る32日間は二つの戦いどちらも国軍が戦闘任務を引き受けていたという事実だ。明らかに「韓国軍と中国軍の戦い」だったにもかかわらず、中国側は「米国と戦って勝った」と精神勝利に酔っているのだ。1956年に出た中国の古典的な宣伝扇動映画『上甘嶺』を見ると、どう見てもウイグル系中国人のような「米軍」が人海戦術を用いて高地に登ってきては、坑道要塞から機関銃を撃つ中国軍によって秋の落ち葉のように倒される。「侵略者」と戦ったと? 違う。侵略に立ち向かって抵抗したのは、わが地で戦った国軍だった。

 多くの中国人は、このように周辺国の歴史的状況や傷跡に鈍感かつ無知なケースが多い。2006年、ハルビン市に立てられた安重根(アン・ジュングン)の銅像が「外国人の銅像は駄目だ」という理由で当局によって撤去される際、ある中国人が「ソウルに毛沢東の銅像を立てたりするのと同じじゃないか」と言った。その中国人にこう言ってやった。「その二つのケースがどうして同じなのか。ハルビンから見ると、安重根義士は自分たちに代わって帝国主義と戦ってくれた英雄ではないのか? 逆にソウルから見れば、毛沢東は1951年1月に大兵力を動員してソウルを武力占領した侵略者ではないか」

 EXOのレイ、f(x)のビクトリアなど中国出身のアイドル歌手が、中国軍参戦70周年に合わせてソーシャルメディアに「抗美援朝70周年記念」「英雄に敬意を表する」などの文章をアップし、物議を醸している。習近平国家主席が「米国の侵略に立ち向かった正義の行動」うんぬんと言ったのと歩調を合わせるかのような発言だ。あのころ彼らの政府がスターリン、金日成(キム・イルソン)と手を組んで、その「英雄」たちを韓半島へ送り、武力で地球上から抹殺しようとしていた国は、今彼らが芸能活動を行ってカネを稼いでいる、まさにその国ではないのか? もし毛沢東の「抗美援朝」が計画通りに行われ、韓半島全体が五星紅旗で赤く染まっていたら、韓国政府が当時の米国の秘密作戦通り、韓国の面積の0.1%程度にとどまる南太平洋のサイパン島やテニアン島に亡命していたこともあり得る。おそらく、Kポップや韓流のようなものが生まれるのも困難だっただろう。

兪碩在(ユ・ソクチェ)記者

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